雨 (テニプリ 乾×海堂)

「雨がひどいので今日はここまで! 風邪を引かんようにな!」
竜崎が叫んで、練習試合は半ばで終わった。
久しぶりの越前との試合、最後までやりたかった。 海堂は小さく舌打ちした。
フェンスの向こうに乾が立っている。笑われたような気がして、 プイとそっぽを向いた。バンダナを手荒に取る。湿っていて不快だった。
フェンスに引っかけたタオルを取って、顔を隠すようにかぶる。
気づかれないよう乾の方を見たら、もういなかった。 がっかりして、海堂は息を吐いた。

コートを出て、何気なく乾のいた場所を振り返った。 ぬかるんだ土に、乾の靴の跡が残っている。 灰色の雲に覆われた空の下、 テニスコートにはもう誰もいない。
「…」
押し固められた跡が、雨で溶けそうだ。 そっと自分の足を、合わせてみる。
フェンスの向こうに、テニスコート。さっきまで、自分がプレーしていた。 乾がここから自分を見ていた。
「…」
もう一度、乾の靴の跡を見つめた。 海堂の靴を一回り大きくなぞったように残っている。
海堂はフェンスに指をかけた。濡れるのも構わず、 ぼんやりと誰もいないテニスコートを眺めつづけた。


「風邪ひくぞ、海堂」
振り向くと、さっさと制服に着替えた乾が、傘を差しかけていた。
「俺の足跡がどうかしたのか?」
海堂は顔が熱くなるのを感じた。
「っせえ」
逃げるように部室へ走った。
「早く着替えてこい」
乾の声が背中を追いかけてくる。
今日はもう、乾の顔は見られない。



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