シンドローム (ワンピ ゾロ×サンジ)


感じの悪い目付きはお互い様。そんなことはわかってる。
俺が人一倍レディに優しいことも、男に厳しいことも、 あいつは何でもわかっていて、しかもどうでも良さそうだ。 問題は、メシの時間を寝過ごしたあいつの分を、 ルフィから守るのがどれだけ大変か、わかってねえってことだ。
どんなにムカついても(あのクソマリモ)、この船の一員として、 俺のプライドにかけてコックの責務を果たしてきた。
誰も飢えないように。誰もあんな思いをしないように。
俺はコックになるべくしてなったと、我ながら思う。
あいつの一番好きな酒を、飲んでしまうつもりだ。 出来立ての、一番おいしい時間に間に合わないから、 こんな目に遭うんだ。
酒瓶からグラスに注ぐ。波をたてるアルコール濃度の高い液体は、 さながらオールブルー。
バカヤロウ。
熱さを遺して、それは喉を下りていった。


「おい、酒ねえか、酒」
キッチンのドアが開いて、ゾロが入ってきた。
「ねえよ!」
サンジはいつものように深夜に現れた酒泥棒を睨んだ。
「てめえ、自分が飲んでんじゃねえか!」
酔っ払ったサンジにゾロが喧嘩腰で声を荒げる。
「貸せ、俺の分残ってんだろうな?」
「お前の分なんてねえ」
サンジは勢いでラッパ飲みして、飲み干せずに一口残った酒瓶を テーブルに置いた。ぷはあ、と息をつく。ぐらっと来た。
「このやろう、」
ゾロが床に倒れそうになったサンジの体を支え、押し戻した。
「お前の分なんてねえ!」
サンジは叫んだ。一度言ってみたかった。 このクソ野郎は起こしても起こしても寝過ごすんだ。
「こんな強いの飲みやがって、」
ゾロは残った一口を飲み干すと、手の甲で口を拭った。
野獣みたいな仕草がお似合いだ。
まったく洗練されていない、 田舎の、ファッションセンスゼロの、荒っぽい男。
真っ直ぐで、恐ろしく強くて、でっかい夢があって、泣いたりなんかして、 カッコわりい男。
出会った時の、強烈な印象が、サンジの中にある。
真っ直ぐで単純な性格が、実は少し羨ましい。
「てめえの分なんてねえんだ、クソ野郎!」
「うるせえ、この酔っ払いが。お前が飲める酒じゃねえんだよ!」
ゾロの手が金髪をパシッと払って、冷蔵庫を開けて水を出した。
「てめえの分なんてねえからな!」
「ああ、わかったわかった」
空のグラスに注がれた水を、当たり前のようにサンジは飲んだ。
「足りねえ」
無言でゾロが継ぎ足した。飲み干す。
「足りねえ」
冷ややかな目だ。ため息をついて注ぐ。飲み干す。
「てめえの分なんかねえからな!」
サンジが呟いてテーブルに顔を伏せた。
「…泣き上戸かてめえ」
呆れたように、ゾロの声が降ってくる。
「お前なあ、あの時食っときゃ良かったって、絶対思うんだぜ」
サンジは顔を上げて涙を拭った。あとからあとから溢れてくる。
「すぐに食ったら、絶対うまいのに、お前いっつも来ねえから… 一生懸命…俺がルフィから守って…でも いつか、く、食い損ねて…腹が減って…」
「あー、わかったわかった」
面倒臭そうに、ゾロが返事した。
「あんな思い、させられねえ…」
サンジが子供のように目を擦りながら泣き出した。
「脅えてんじゃねえぞ、コラ」
「脅えてねえ!」
ゾロの言葉にサンジが泣きながら反応した。
「来い」
ゾロに腕を引っ張られて、キッチンを出た。

船倉の狭い空間で、食料の荷を見ながら睦み合う。
ゾロの激しいキスに朦朧とする。
「なンも考えられねえようにしてやる」
ゾロの声が低く聞こえて、手荒に体をまさぐった。

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