デジャヴ (テニプリ 乾×海堂)
海堂は気配を伺った。バンダナで目隠しされて、何も見えない。
床に膝をついて、乾のものを慰め続ける。
誰もいない部室。二人きりになってから、どれくらい経つのか。
海堂はまだジャージのままだった。
以前にも、こんなことがあった気がする。
いつだったか…生々しい快感や、触れた肌の熱さは思い出せるのに、
わからない。
口の中に埋め込まれたものは、ずっと、海堂を蹂躪し続けている。
苦しい。永遠に続くような気がする。
見えもしないのに、思わず乾の顔を見上げるようにする。
漏れる乾の吐息。感じている。
「ちゃんとやれ、海堂」
命令口調で頭を押さえつけられた。
こんな乾は知らない。知らないのに、知っている。
「ん…む、」
髪を掴むようにして上を向かされて、海堂は口からそれを出した。
「何も考えるな」
手の甲で口を拭き、息を繰り返す。乾の視線を感じる。
乾は自分でそれを擦り上げているようだった。見えなくたって、わかる。
「…何か怒ってるんスか、」
目隠しのまま見上げた。乾は答えない。
「あの、」
「怒ってないよ」
遮るような低い声。
ジャージを引っ張られて立ち上がる。顔に吐息がかかった。
「何かいつもと違…」
唇をなぞる乾の指先。入り込んでくるのを、唇で遮る。
「舐めろ」
海堂が嫌がるように顎を引くと、壁に押し付けられる。
強引に入ってくる指。
「あぐ…」
この感じ、知ってる…
滲み出た涙がバンダナに染みていく。
「ん、」
いやらしいよ、すごく。
海堂は指をしゃぶりながら、乾の声を思い浮かべた。
「いやらしいよ、すごく」
同じ台詞。体が熱くなる。
「昨日、眠れなかった」
乾の指先が歯列をなぞる。
記憶の中の乾の唇が紡ぐ。
「お前をめちゃくちゃにすることばかり、考えていたんだ」
同じ調子で、あの声で、乾が言った。
「ふ、」
ジャージの前を開き、ひんやりした手がはだけられた胸を撫でる。
「こんな風にして、」
口から指を抜き、くるりと後ろ向きにされる。
海堂は壁に手をついた。
「ア、」
ズボンを引き下げられて、下半身が冬の空気に晒される。
尻を撫でる乾の手。
「イヤ…」
上ずった声で訴える。覚えている通りに。
「…同じだ」
乾は嬉しそうに含み笑いした。
「こうしたんだ…」
「ア!」
指を差しいれられて、海堂は身を縮めた。
わかっていたって、体は反応してしまう。
「このへんをこうしたら、」
乾の指が中で蠢く。
「ああああぁ」
「お前はそんな風に喘ぐんだ…」
乾が見ている。確かめるように、互いに反応を再生している。
先輩は、何を見たんだろう。
俺の記憶と、先輩の妄想と。
「せんぱい…っ」
振り向いて抗議しても、乾は許さない。
「く…」
声を噛み殺すように手を押し付ける。それでも鼻に掛かった声が漏れた。
「表情まで一緒だ」
乾は息を吹きかけてきた。
「もっと焦らして欲しい?」
散々楽しんでから、聞いてくる。何から何まで、シンクロしてる。
「嫌だ」
海堂は壁に寄り掛かるようにして額を擦りつけた。
「じゃあ、もう少し足を開こうか」
「…」
言われた通りにする。腰を引き寄せる乾の気配。
その瞬間さえ、わかっている。
「アアア…ッ」
仰け反って悲鳴を上げると、乾はうなじに噛み付いてきた。熱い。
「アアあ」
「いやらしい声だ」
どんなに我を忘れても、乾の声だけは聞こえる。
「動いてみようか」
抗議する声は言葉にもならない。
そんなに怒るな、海堂。
いつかみたいに、乾が呟く。
「痛いのは嫌?」
あの時と同じように必死で頷くと、乾が吐息を漏らした。
「完璧だ」
呟くと、汗ばんだ海堂の背中に唇を押し当てる。
「!」
あの時よりも強く、乾を感じた。
長い指が、シャツのボタンを留めてくれる。
ベンチに掛けたまま、じっとそれを見ていた。
「先輩」
「?」
乾は目で訊く。
「俺、今日のこと知ってました」
「そう」
「先輩も見たんスか…?」
「…どうかな、」
乾は瞬き、ベンチに放り出されたバンダナを取って、綺麗にたたんだ。
「実は、もっとひどいことも想像した」
抑揚のない声で言うと、視線を逸らす。
「どんなことっすか」
「言ったらお前怒るから」
「でも俺も、その先を知ってる」
乾は顔を上げた。
「じゃあ、試せば良かった」
「…嫌だ」
身支度を終えた海堂の首にマフラーをぐるぐる巻いて、
乾の手が離れようとする。反射的に引きとめた。
呆気なさと、物足りなさと、離れてしまう寂しさに、
どうしようもなかったから。
「サイゴの部分は現実にしてくれ」
言ってから、顔が熱くなった。
「台詞が違う」
乾は意地悪く笑うと、眼鏡を取り、俯きがちの唇に触れてきた。
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