螺旋 (ワンピース ゾロ×サンジ)

金色の髪が俯きがちな奴の表情を隠している。
むっつりと閉じた唇に、タバコはない。
珍しくテーブルについたまま、奴は作業している。 ニコチンの切れかかった体、一心に包丁を動かす手。 食事を終えた他のクルーを見送り、 静かになったキッチンには、俺だけがダラダラ残っている。
「早く食っちまえよ!」
こっちも見ず、吐き捨てるように奴が言った。イライラは最高潮。
「悪ぃな」
俺は眺めて楽しみながら、スープを飲む。
給仕もしない奴がそばにいて、静かなランチ。
「何イラついてんだ、」
本当のことを言うと、こいつは何も言わなくなる。
「イラついてねえ。迷惑だって言ってんだ」
奴の手の中で回転する赤いリンゴ。どんどん裸になっていく。
「怒んなよ」
パンを齧り、皿に残った魚の切り身や、サラダを一瞥する。
「片付いたらキスしてやろうか?」
奴の機嫌を直すには、これが一番だ。
「嫌だ」
…気分を害しつつ、残りを全部平らげる。気を取り直して再挑戦。
「そのリンゴ一人で食うつもりか?」
「アップルパイにするんだ、バカ!」
「俺も食いてえ」
「柄にもねえこと言うな!」
奴が手を止めて俺を見た。 ぷ、と吹き出して、包丁を握り直し、また剥き始める。
「てめえには皮で充分だ」
口元をほころばせた。
「お前になんか、やらねえからな」
嬉しそうに宣言する。 奴の手から流れ出した赤い螺旋を、俺はむしゃむしゃ食い続けた。



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