モノクロ (テニプリ 乾×海堂)
いつも、見つめている。
「何だ?」
視線に気づいて、乾が振り返る。何でもねえ、急いで言って首を振る。
寄り道の公園は夕日がわずかに差すばかりだ。
乾が道を選び、海堂がついて歩いた。制服の広い背中、乾の体はもう
ほとんど出来上がっている。きっと大人になっても、こんな感じなんだろう。
自分の将来よりも、乾の将来のほうが簡単に描けてしまう。
いつまでも、背中を見ていたいと思うのは、おかしいだろうか。
一方で、苛立ちに似た思いで、乾を睨んでいる。
どっちも、本当。どっちも、自分。
出来るなら、もっと鈍感で居て欲しい。
時に本筋から逸脱するくらい研究熱心で、何でも知っている。
何でもわかっている乾だから、人間関係の機微にも通じているんだろう。
この気持ちの名もちゃんと、乾は言い当てることが出来るのだ。
乾には、到底敵わない。
最初から、張り合おうなんて思ってもいない。テニスを別にしては。
「先輩」
海堂は呼びかけた。
「何だ?」
乾がもう一度振り向く。
「眼鏡取って下さい」
「いきなり何なんだ?」
「取ってくれないと、…」
海堂は俯いた。全てを見透かすような眼鏡さえなければ。
「取ったよ」
顔を上げたら、乾が見慣れない顔で目を瞬かせていた。
「俺を見ないでくれ」
「え?」
「見ないでくれ!」
背伸びして唇に触れた。堅く目を閉じた。少し湿った乾の唇の感触を、
忘れないように味わった。
「海堂、」
唇が離れて、名前を呼ばれた。
「もういいから、俺を見てくれよ」
乾が見ていた。すぐ俯いた。
「どうして見てくれない?」
海堂は下を向いたままでいた。
「アンタを見てるとムカつく」
「…」
「俺が見てるのに、気づかないフリするし」
乾の視線を感じる。乾の足元を見つめる。
「時々気づいたフリして、俺をからかうし」
不意に涙が浮かんだ。
「俺は何も見たくないっす、」
堪えきれなくて涙を拭いた。
「先輩見てたら、狂いそうになるっス」
視界に乾の大きな手の平が入った。抗う間もなく頬に触れた。
「!」
額に唇が押し当てられた。そのまま涙のあとを辿るように下りた。
「俺も見たくないよ、海堂」
乾が囁いて、唇を塞ぐ。
乾は堅く目を閉じていた。だから海堂はもう一度目を閉じた。
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