BLUA (ラーゼフォン 樹×綾人)
「やあ、久しぶり」
綾人が東京ジュピターから帰ってきたことは、何を意味するのだろう。答えは出ていない。
僕はたぶん、意思を持って綾人に手を伸ばした。眼鏡を取ってカウンターに置き、
綾人の手を取って、寝室へ行った。
「苦しい事があったんだね」
綾人は瞬いて、僕から目を逸らした。
自然を装うように、それは始まり、綾人は決して自分からは何もしないことで、拒否し続けた。
綾人は後ろに手を突き、膝を曲げたまま僕に足を開いている。その姿で僕のすることを監視している。
「怖くないの」
再び傷つけることになりそうなその場所を愛撫しながら、聞いてみた。
「怖いです」
その瞬間、まるで自分のようだった綾人の存在が、遠くなった。
綾人は、僕ではない。当たり前のことが強引に繋がることを繰り返すうちに曖昧になっていた。
「あなたと寝たあとは、いつも変な気持ちがした」
「僕もだよ」
ならなぜ触れる、と聞くように、僕を見上げる。
「…教えてあげようか。僕の秘密」
綾人はほとんど表情を変えなかった。僕はシャツのボタンを一つ一つはずした。
綾人が息をのむのが感じられた。
「俺だけハダカにするの、そういう趣味なんだと思ったよ」
綾人の声は震えていた。
「何だよ、それ」
僕の刻印を見て、自分の刻印に触れる。見比べる。
「触らせてあげようか」
綾人の手を取って刻印に押し付けた。何度妄想しただろう。
いつか、誰かが、この身体を愛してくれることを。誰にも本当を見せないまま終わろうと思っていた。
「一緒だと、嫌?」
「いや…」
綾人は否定し、同じ刻印を見比べた。
「あんた、誰なんだ」
「知ってるだろ。如月樹」
唇を塞いだ。そのまま押し倒し、綾人の中へ潜った。
「ア…ッ」
綾人の体を傷つけて、押し進む。
「綾人」
体を合わせてみた。温かい。同じ刻印が、触れ合う。
「あっ、ああぁっ…」
綾人が身を捩る。苦しみはどこかで快感へと統合される。そうしてでも生きようとするのが命の本質だから。
目を閉じて感じてみた。きっと僕ほど人を愛せる人間はいないよ。兄さん。
綾人の刻印に触れると、綾人も僕の刻印に触れてきた。
「気持ちよくしてあげる」
辛そうな顔で、首を振る。
「君の体のことはちゃんと知ってる」
夢中で綾人を犯していた。
僕はいつまでこうして綾人を責め続けるんだろう。
思考が冷えてくる。僕を責める、あの頃の僕。綾人に良く似た、僕。
「どうした、の、」
綾人が僕の頬を撫でた。
「何泣いてるんですか、樹さん…」
「ひどいなあ、…と、思って。…僕は」
「ひどいですね」
綾人は諦めたように笑う。僕はまだ受け入れられない。愛されないことも、選ばれないことも。
そっと唇を近づけた。温かい。乾いた感触は、やがて熟れた果物のように潤う。
「っ!」
思わず噛んだら、突き放された。
「…青い、」
思わず呟いた。綾人の唇を、綾人の血を見つめた。大人になってしまったのか。君も。
哀しさを含んだ空気が僕たちを包んだ。これが、僕が望んでいたことなのか。
「…ごめん綾人くん」
変化の痛みは、僕が犯すという形で与えた傷より、大きく綾人を動揺させるのだ。
僕が、自分のやったことに動揺するように。
「僕は、ムーリアンだ、から…」
綾人は涙声で言い、唇を拭いた。溢れ出る。目の前に突きつけ、苦しみを与えたのは僕だ。
「こんなつもりじゃ、なかった」
もう一度唇を舐める。抱きしめる。
兄さん、
声に出さず呼んでみた。
腕の中にオリンを包みこむ。きっと、みんなと同じように、僕は兄さんを愛したかった。
僕を抱き返す腕。オリンの腕。僕と同じ痛みを、生きている。
始まりための終わりが、もう近づいている。
現実感。愛について。僕は、君の答えが、知りたい。
その先の世界を。
FIN
Copyright © 2007 SHURI All Rights Reserved
タイトルは表示正しくないエスペラント語で赤と青。