二人と一匹 [19] (ワンピース パラレル ゾロ ナミ サンジ)

「全部ナミさんのせいだ!」
ナミが目を潤ませた。
「俺だってナミさんを抱きしめたい。俺だってしたい。俺だって、こんな…、 こんな自分じゃなくて、ちゃんとしたいんだよ」
「サンジくん」
「どうしてあの時、ペットになっちまったんだろう。そうだよ。ナミさんのせいじゃない。 俺がバカだったんだ」
あの日、開いたドアの向こうに立っていた、快活な彼女が泣いている。
「だけど俺、もうナミさんもゾロもいねえ暮らしなんか考えられねえ。 二人が俺によくしてくれるから悪いんだ」
ナミを見た。ナミはじっと見つめ返した。
「さよなら」
いつか、言うかもしれないと思った言葉は、かすれて消えた。 ナミは立ち尽くしていた。サンジは荷物を取り、背を向けた。
離れるなんて、思いもしなかった。でも離れる。
「イヤ!」
ナミの声が響いて、衝撃があり、意識が遠くなった。



…おかしいな
ぼんやりと思った。さっき、泣きながら別れを告げたのは、夢だったのか。 ベッドに寝かせられ、部屋の天井はナミのペットルームそっくりだった。
「ナミさん?」
呼んでみる。
「サンジくん」
ナミは微笑みかけてくれる。いつものように。
「ごめんね。痛かったよね」
氷枕を換えてくれる。
「今度こそ、ちゃんと考えてみたの。だからサンジくんはここにいて」
「?」
「」




考える暇などない日々が始まった。
ナミやゾロの友人からの口コミで客はどんどん増えて、取材が来るほどにまでなった。
最初のうちは、忙しくてもナミの部屋に寝に帰っていたが、 今はより近いゾロの部屋に寝起きしている。
働いている、というよりは、本当にレストランのこと、 料理のことを考えるのが楽しくて夢中だった。 季節ごとに新しいメニューを考え、内装もそれに合わせてナミが少しずつ変えた。
スタッフとアイデアを出し合った。夕食を食べにくるナミ、ゾロと一緒に、 クローズした店の奥でこれからの展開を話し合った。
二人は曖昧なアイデアを嘘みたいに具体的に組み立てて、実行した。
人がやらないことをやっているだけよ、とナミは言った。


「じゃ、また来週、」
ナミが言ってドアを閉めた。
エレベーターを降りてナミのマンションを出、表で待っていた深緑の車に乗り込む。
「ちゃんと送ってきた」
ドアを閉めると車が動き出した。
「あー、眠い」
サンジは言って助手席のシートに埋もれるように体を預けた。 ゾロは無言で運転している。
黙っていて持つようになったのは、この関係が十ヶ月を越えたときからだ。
サンジは目を閉じたまま、考えた。明日は、お客の女の子とデート。
仕立てのいいスーツに馴染んできた革靴。おいしい料理に、女の子へのプレゼント。
花束、スカーフ、香水に指輪。彼女の喜ぶ顔が嬉しい。 一流ホテルも予約バッチリ。もう逃さない。
自分の思うことを、思うときに、誰かにしてあげられる、心地よさ。
金があるって、いいなあ。
幸せに息が漏れた。
「何だよ、寝てんのかと思ったら、」
ゾロの呟きに、目を開ける。
「うっせえな。幸せに浸ってんだよ」
ゾロが笑うように息を吐いた。時計は午前二時をすぎている。通りは車が時折すれ違うだけ。
「…お前さ」
「ん?」
欠伸を噛み殺しながら顔を向けた。
「最近かなりお盛んみたいだが」
「…その話か」
後ろめたくなるのが嫌だ。何もかも、ナミとゾロのお陰だと知っているから余計に。
「…好きな女を抱けっつったのはお前だろ」
サンジは信号を軽く睨んだ。
「ま、舞い上がりたくなる気持ちはわかるけどな」
「舞い上がってねえよ、別に」
少し、ムキになった。そんな響きを持った気がした。
「仕事もうまくいって、自由な金が増えりゃあ女も欲しくなんだよ。 わかってるから言ってんだ」
サンジは黙る。
「お前あからさまなんだよ。店の客でもいいけどよ、もうちょっと気をつけろよ」
「何が」
「女のにおいをプンプンさせてナミの周りをうろつくな」
「そんなことしてねえ!」
「わかるんだよ。してなくても。気配が」
「…俺に前みたいに腐ってろっていうのか?」
「そうじゃねえ。…ったくどう言ったら、」
「じゃあ、はっきり言わせてもらうけどな。俺はナミさん以外なんてどうでもいいんだよ。 てめえなんか欲しくもねえ。だけどてめえに勃起するし、ナミさんの犬でしかねえんだよ。 だったら俺の性欲はどこで満たせばいいんだよ!」
一気に吐き出したら、今度はゾロが黙った。
「お陰さまで童貞卒業したら、何だかいい感じに自信もついて、力も抜けてよ、 おまけにカリスマコックだなんてちょっと名前も知れてきた。 万年もてないくんだった俺に、かわいい子が話しかけてくれるんだ。 本気になって貢いで、ひと月分スッカラカンでポイ捨てだ。 でも次の月には別の子が寄ってくる。どうしてだかわかるか? 俺は金の首輪をしたペットなんだ。 ペット以上のことなんて、誰も望まない。 たまにうまくベッドへ行けたからって、満たされるわけでもねえ。 彼女たちにとっちゃ、セックスなんてカンタンなものなんだから。 俺の金で気持ちよくなれれば、あとはどうでもいいんだから」
そこまで言った時、マンションの地下駐車場に着いた。
「お前が泣いてんのなんか、久しぶりに見た」
静かな声で言い、サンジに片手を伸ばした。目を隠してくる。
「泣いてねえよ、タコ」
手をどけようとした。
「俺たちと出会って、後悔してるか?」
「え」
唇が触れてきた。久しぶりの体温だと思った。 体が冷えるまでそうしていた。やがてゾロが離れる。
「…全然嬉しくねえんだよ。男の唇は柔らかくねえし」
「…軽々しくして損した」
ゾロが自嘲気味に言った。



「何だよ」
シャワーを浴びて一服し、まさにベッドに横たわろうとした時、ゲストルームにゾロが入ってきた。 ゾロとはしばらくやってない。ナミと遊ぶことも。
「愛のないセックスがカワイソウだからよ。どうせ一割にも満たない打率なんだろうが」
ゾロはにやにや笑っている。
「チ」
自己嫌悪で舌を打つ。激昂したからって、何もかも言うことないじゃねえか、俺のバカ。 髪を拭いていたタオルを投げ捨てる。
「倍、腹が立つんだよ。てめえに言われると」
トランクス一枚のサンジを観察している。およそ興味ないという顔で。
「お前寂しがりだもんな。おまけにこことかこことか弱いよな」
べたべたと大きな手が首筋だの、太ももの内側だのを撫でてくる。
「触るな! 寄るな! 今日はもう寝るんだ俺は!」
ベッドに上がって、手ではねつけた。
「むなしくなる相手なんかと寝るな。女なら誰でもいいって態度だから、 そんな女が寄ってくるんだろ」
「俺のせいかよ」
「お前のせいだ」
ゾロがベッドに上がってきた。
「!」
中心を掴まれる。声が漏れた。
「…っ」
「何だよ、急に大人しくなりやがって」
堪えるように俯き、目をつぶったままでいた。
「口でしてやろうか?」
ゾロが言う。
「マジで?」
思わず聞き返すと笑われた。下着が脱がされても、抵抗しなかった。ゾロがシャツを脱ぐ。
「相変わらず凶悪な体だな。怖えんだけど」
ゾロは何も言わず押し倒し、愛撫してくる。
「…俺、途中で寝そう」
天井に向かって呟く。少し躊躇してゾロを抱きしめた。ゾロの体は熱かった。








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