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強者の気配 [1] (しおんの王 羽仁真×斉藤歩)

短くなった髪に慣れず、指で梳いていると、名人が片付けながら、鏡の向こうで笑った。
「すいません、俺がやります、」
慌てて振り向き、膝をつく。
「いい。毛が散るから風呂で流して来い」
「…あ、すいません。じゃ、お借りします…」
言われるままにシャワーで髪を流す。ジーンズが濡れるのが嫌で、トランクス一枚で入った。
「タオルはここに置いておく」
背後から名人の声。すいません、と声をかけて、顔を洗った。
改めて自分の顔を見る。首筋が寒い。が、精神的に身軽になった気がした。
身支度し、髪を拭く。これから髪を乾かす時間を節約出来そうだ。 楽だな、と思いつつ、その短さに改めて驚く。随分伸ばしていたものだ。
「歩、」
神園先生も、名人も、俺を呼び捨てにする。嫌ではなかった。
「はい、」
タオルを頭にかけたまま振り向くと、名人の手が顎を掴み、あ、と思った時には唇が触れていた。
「…」
名人を凝視する俺、そんな俺を笑っている目、慌てて押し戻す。壁に押し付けられる。 本能的に逃げ場を探した。両手で遮られ、あっさり行き場を失った。
「し、師匠、」
「そう呼んでくれるのか。こんなことをした後でも」
降って来た声に、口を引き締める。
「強くしてやるよ、歩」
もう一度、触れる。名人は目を閉じていた。
どうしたらいいのか、迷っていた。迷ったまま目を閉じた。シャツの中に潜り込み、体を撫でる手の熱さに、身を捩った。 唇を解放して、抱き寄せる。体が緊張で固まった。名人はそれでも、耳を甘噛みし吐息をかける。 俺の反応を楽しみながら、シャツを捲り上げ、乳首を弄り、背筋に沿って指を滑らせる。 耐え切れず、声を上げて跳ねると、強く抱きしめられた。
「覚悟しろ歩」
押し返そうとするも力が出ない。名人はジーンズの前を開けてトランクス越しにそこを擦り上げた。 手は尻の方へ周り、そちらはトランクスの中へ潜り込んで直に熱い手が撫で上げた。 恥ずかしさに頭に血が上る。ガキをからかって楽しんでいるのか。
「ど、して、こんな…」
努めて平静でいようとしたのに、息が上がっていた。この人の体温のせいでおかしくなったのだ。
「愚問だな。今何を感じた? 歩」
顎を取られる。将棋指しの綺麗な指。名人は俺を見据えていた。
「答えろ。どんな感じがした?」
「…」
何を答えたらいいのかわからず、視線をはずして黙っていた。
「何でもいい。お前の答えが知りたい」
「…」
口を開くと、名人の目が俺の答えを聞こうとした。何も言えず閉じると、期待が外れたようにがっかりする。
「いいから言え。お前そんな物怖じするタイプじゃないだろう。怖がるんじゃない」
「…です」
「何、聞こえん」
「あ、つ、かった…です」
目が合うと、そんなつもりはなかったのに、涙が溢れ出した。
「そうか」
名人は指で俺の涙を拭うと、シャツを下ろした。
「帰っていぞ。明日九時にここへ来い。しばらくは下働きだ」
名人が背を向ける。大きかった。
「はい」
身体に触れた熱さを、まだ感じていた。



「シャワーを浴びて来い、歩」
駒を仕舞い終えるタイミングで、名人は言った。
「…はい、」
ほぼ毎日名人の部屋へ通い、細々した雑事をする。 昼間はそばにつきっきりで師匠の指す将棋を見て、夜は棋譜を並べた。時間が空けば指導対局して貰えた。
シャワーに打たれながら、棋譜を思い出す。気づくと夢中になっていて、 遅くなったことをどう詫びようかと思いながら寝室へ行った。
「少し髪が伸びたな」
名人は言いながら触れた。思い切り短くされたので、元々知っている人以外はほとんど気づかなかった。 名人はわざとそうしたのかもしれない。
「もしあのままだったら、いつまで女流でいるつもりだったんだ?」
腰のタオルを取られた。
「わかりません。先のことなんて考えてなかった…から」
でもいつか全て晒される日は来ただろう。俺は心のどこかで、母で人生を測っていたのかもしれない。 逃れたいほど辛くて、だけど失いたくなかった。それは本当だから。
泣きそうになった俺を、名人が抱きしめてくる。背中を撫で、腰を下りていく。
「まだ怖いか?」
降ってくる声は低い。たぶん俺は嫌ではない。
「…わかりません」
名人はベッドを顎で差す。広いベッドに上がり、振り向く。
「お前は正直なのか、自分を隠しているのか、どっちなんだ?」
「…よく、わかりません」
答えると、一瞬睨んでから俺の中心に触れた。名人の手は大きくて、熱い。 棋士だということを抜きにしても、この人の生命力に圧倒される。 ナルシスト気味に着こなしたスーツに騙されてはいけない。 本来のこの人はもっと泥臭くて、精力に満ちている。髪を切った夜、人間の持つ熱さに驚いた。
「ちゃんと考えろ」
擦りあげ、反応するまえに、根元を戒められた。
「だって、わからないんです、師匠」
「俺は相手の心を読めと言った、だが一番に自分自身の心がわかっていなければ意味がない」
「…」
「お前にはまだ早かったらしいな。自分を裏切るような奴に強くなる資格はない」
「あ、」
両手を縛られる。
「やめてください師匠! それは嫌だ!」
挿入されようとしているものを見て、すぐに叫んだ。
「いつまで正気でいられるかな。考えがまとまったら呼べ」
「そんな、無理です! 師匠!」
スイッチが入り、体を震わすと、名人はもう一度位置をなおした。声を上げても、顔色一つ変えなかった。
「いいか歩。お前はどうしたいんだ。何を感じてる? 何が欲しいのか、よく考えろ」
名人はいいところにそれを固定して、部屋を出て行った。
「師匠! 師匠!」
唸り続けるそれに耐えながら、思考する。落ち着きなく移動する視界。俺が俺でなくなっていく。
「師匠…っ! 師匠…っ」
力んでも、声を上げても、それは抜けなくて、イクことも出来ない。
俺はここで何をしてるんだろう。
「わからない…っ、わかりません、師匠…助けて…」
動けないなら、声を上げるしかない。疼きに耐えかねて泣きながら全部を呪った。 俺は。俺は。こんなことをしに来たんじゃない。


「…っ」
どれくらい経ったのか。今日はどうしてか最初から耐え切れなくて、思い切り泣いた。 反応しようにも疲れきって、もう暴れようとも思えなかった。
「ん」
体の奥で振動し続けるものに耐えて、寝返りを打つ。
「い…やじゃありません…俺、つよ…強くなりたくて、俺…」
涙が熱い。
時計の音も遠ざかって、体から心が離れた気がした。胸が痛い。どうして俺は泣いてるんだろう。
「師匠…師匠…」
うわ言のように呼ぶ。こんな声じゃ、あの人には届かない。また朝になってしまう。
「あぁ…っ」
いきなり体の奥に押し込まれていたものを抜かれた。名人が俺を見ていた。部屋に入ってきたのにも気づかなかった。
「師匠…」
「少しはわかったか」
「俺…は、」
名人の手が俺の頬を撫でた。
「強くなりたい…」
「そうか」
師匠のが、口に押し込まれる。
「よく濡らせよ」
「ん、うう、う、」
今まではこんなことはしなかった。名人は俺に口でやれとは言わなかったから。
「…っ、」
奥まで入れて引く、見上げると名人は俺を見ていた。
「もっと深く、だ」
「む、んん、う」
ゆっくりと押し込まれ、視界が揺らいだ。生き残るために必死だった。そんな切実さが今、あった。
名人が堅くなったところで解放される。
「師匠、」
見上げると、師匠は僅かに笑っていた。
「無理に飲むことはない」
俺の頬を撫でると、足を抱えあげる。
名人はそっと俺の中を探り、それから一気に入れた。
「あ、あぁッ」
「どうした」
いつもと違う。今まで、ゴムなしに挿入されることはなかった。
「だって、あ、あァ」
手も外すように仕草で訴えたが名人は首を振った。
「駄目だ、歩。お前は急ぎすぎる」
腰を引きつけ、両手で腰から腹、胸へと撫で上げられる。ゾクゾクした。 ゆっくりとした動き、直にこの人を感じている。遠ざかるたびに、引き戻したくなる。
「俺を感じるか」
「師匠、」
「お前は今お前より強い男と寝てるんだぞ」
「師匠、」
涙でボロボロの俺の顔にキスをする。嬉しかった。俺はこの強さを知って、それすら越えられる。
「俺、俺は、もっと、強く…」
「歩」
激しく突き上げてくる。名人に惹かれるのを押し留めるように、両手を戒めた紐がキリキリと俺を引っ張る。 繋がった部分が熱く擦れて痛い。もっと締めろと囁く名人の声に必死で応える。
「もっと、もっと、」
動きが激しくなる。駆り立てられると、身体が熱くなった。恐ろしい強者に全て奪われるのかと思えば、 そうではなく、最初の時から俺は何も奪われなかった。
「師匠、」
何も得るものなんてないくせに、俺を抱く。
体位を変え、さらに深く繋がる。最初に抱かれた時は、どういうつもりかと思っていた、 そういう世界があることも、何となく理解していたし、受け入れるつもりで覚悟した。
だけど、全然、そんなんじゃない。
「ああぁ、このまま、このままでいて下さい、師匠、」
足を絡め、名人の気配に酔う。この人の強さが欲しい。もっと感じていたい。
「こら離せ歩、」
片足をはずし、戒めた性器を撫でる。大切に扱ってくれる、綺麗な指。俺を擦り上げる。
「歩、」
「師匠、師匠、俺、」
「気持ちいいのか」
「イク、い、ああああ、ん、」
肩で息を繰り返す。強めに玉を握られて、唸った。
「簡単過ぎるぞ。まあお前の年では仕方ないか」
「…」
呼吸を繰り返す、幸せだ。俺は幸せだ。もっとめちゃくちゃにされてもいい。この人の全てを吸い尽くしたい。
揺られながら、名人だけを見つめた。
「心の掛け金が外れたからと言って、手の内を全て晒すのはどうかな」
「だっ…て…」
「自分をコントロールしろ。一度は己すら欺いたくせに、元に戻れば弱くなるのか」
その通りだ。今この瞬間ですら、名人は俺に教えている。
「あ、ああ、ァッ、あああ、」
激しく追い詰められてついに達する。俺に注がれる名人の精液。
「歩、」
思い切り奥へと腰を押し付けてくる。ずっとこの瞬間を待っていたのだと思った。こんな感覚は初めてだった。 快感のためなのか、意識が輝いている。
「出すなよ」
「出しま、せん、師匠、」
性器を戒めた紐を解かれ、名人の手に放った。激しく唇を貪られる。酸欠になるまで夢中になった。 獣だ。何者にも屈せず、頼らない、身一つで狩をする獣。
「!」
うつ伏せにされ、腰を上げさせられる。中に指をいれ、掻きだしたものを尻に塗りつける、 生暖かく緩い感触に、再び俺の中心が硬くなる。
「感じるのか歩」
「し、師匠、も、」
答えるように俺の尻の間に繰り返しペニスを擦りつける。そうしている間にまた硬くなっていく。 尻を撫でられただけで、感じてしまう。
「師匠、」
乞うように言うと、一気に挿入された、溢れた精液が零れ出して、内股を伝っていく。
突かれるたびに揺れる身体。この人の強さを、感じる。名人の吐息が聞こえる。 背中をなぞる指先。甘美な動き。快感のままに身を捩った。
口から溢れ出す声で、名人は俺がどんな状態なのかを量っている。 体の中心が熱くて、おかしくなるくらい感じているんだと、ちゃんと伝わっているのか。
「アッ、あぁっ」
溢れ出したものが動きにつれ音をたてている。
「ああァ」
声を上げて悶えていると背後から両手を掴み、激しく俺を突いた。
「し、しょ…、」
擦れ、突き動かされる。汗が滲み出た。フラフラになる俺を、まだ離さない。腕を強く握る師匠の手。 繋がれた俺の手。
「…っ、…、…!」
声も消えて、出てくるのは吐息だけになった。
「あ…、アァッ」
登りつめた瞬間、名人は強く俺の手を握り、腰を打ちつけた。
「あああ、ああァッ」
名人が再び俺の中に精を吐き出す。
「歩、わかるだろ」
その言葉に目を閉じたまま頷き、されるがままになる。解放され、体を投げ出す。 名人もしばらくは俺を抱いて目を閉じていた。
「師匠…?」
頬を撫でて振り向かされ、キスをする。
火照った身体が冷めないうちにまた挿入され、何度も突かれ、吐かれた。
「大丈夫か」
仰向けに身を投げ出すと、くたくたの体を開いて、足の間を見る。
「出すなと言ったのに、」
撫でられて、また出そうになった。
「いっぱいで…すみません、すみませ、師匠…」
「もっとよく見せろ」
足を開き、尻を上に向けるような態勢になる。かなり苦しい。
「出してみろ。ちゃんと入ったか確認だ」
名人は言って撫でた。俺が感じているのを見て、苛めるように、穴の周囲を刺激する。
「出せ」
「でも、」
泣きそうになりながら我慢する。名人は怖い顔をしてみせて、そこに指を入れた。
「俺が出せと言ってるんだ」
かき回すようにして、抜く。
「…!」
粘着質な音を立てて、溢れ出したものを見て、師匠は微笑んだ。
「生で注ぐまで時間をかけたんだ、お前も良かっただろう、歩」
「師匠、」
「全部出せ。始末はしてやる」
恥ずかしさに目をきつく閉じ、少し力む。溢れ出た感触。生暖かいものが受け止め、塗りつける。濡らされていく。 見ると名人は俺のそこに顔を伏せ、溢れ出る白い液を舌で舐め取っては柔らかい部分に馴染ませていた。
「やだ、」
「今更何を嫌がる」
「だって、こんな、」
起き上がろうとすると、名人は俺の肩を押し付けた。
「あれだけよがっておいて、恥ずかしいなんて言うんじゃないだろうな」
足を下ろしても、名人の手は俺の内腿を撫でている。
「…」
「俺を責めるのか? 責められるようなことはしていない。お前だってどうして俺がお前を抱くのかわかるはずだ」
「そんな…つもりじゃ…、」
「他人には理解不能なことをやってるんだ。お前に通じればそれでいい」
「だって…、こんなの…セックスより恥ずかしいです」
顔が熱くなった。名人が溜息をつく。
「もういい。洗ってやるから、来い」
怒った。俺が怒らせた。
「ほら来いよ、始末してやると言っただろう」
「動けません、床が…汚れ、」
「汚してもいい」
首を振った。
「だから確かめたんだ。お前はどうしたいのか」
「全部わかります。俺わかってます。もう自分のことも、わかった、けど…」
「怒ったわけじゃない。こんなことで心を乱すな。まだ時間はある。慣れれば快感にもなる。お前は淫乱だからな」
「…」
俯き、涙が出ないように堪えた。わざとそんな言い方をするのはわかっている。だけどきつい。
「歩、簡単に傷つくな」
言葉に虚をつかれる。強引に引っ張られ、慌てて尻を抑えた。 バスルームで時間をかけて始末した。俺の中に何度も注がれた名人の精液がかき回され、伝い落ちていく。 透明な湯が降り注ぐ中、あの熱く綺麗な手の中で俺が弾けて、 名人が息を吐くのを見た時、俺もこの強者に何かを与えているのだと悟った。



羽仁名人と歩の組み合わせはほんとうにいかがわしい