強者の気配 [2] (しおんの王 羽仁真×斉藤歩)
名人の対局後、途中で車から降ろしてもらって、紫音へのプレゼントを買いに行った。
大した額でもないのに悩んで買ったのは星のペンダント。
女装のために女の子の店へ入ったことはあったが、本来の姿で雑貨店に入るにはかなりな気合が必要だった。
その恥ずかしさも、緊張も、紫音のためだから出来ること。恋をしているんだ、と思う。
火照った顔を鎮めながらクリーニング店へ入って、名人のスーツとシャツを引き取る。
名人の部屋へ戻った時には八時近くになっていた。
「師匠? 帰っておられるんですか?」
合鍵で入ったら、靴があったので居間を覗いた。ソファで飲んでいた。
「遅くなってすみません。クリーニングすんだもの、クローゼットにかけておきます」
「ああ」
「他に何かありますか?頼まれた買出しは明日…」
居間に戻って言いかけると、名人が遮るように話した。
「もうすぐお前の大事な紫音と対局だ。お前はどちらを応援する?」
「え…」
迷うような表情を見透かされた。返事出来ずにいると、引っ張られてソファに膝をつく。
「あの、師匠」
問答無用で脱がされていく。
「これは俺の服だ。返せっていったらお前今夜は帰れないな?」
「そんな、」
「嘘だよ。帰れないのは本当だけどな」
手を握ってそのまま甲にキス。
「師匠」
「そんな目をするな、歩」
俯き気味の俺を下から覗くように唇に触れ、キスに酔っているうちにどんどん身軽になり、寝室へ誘導される。
名人はうろたえる俺を追い詰めて、ベッドに押し倒した。
「俺みたいな男は、もう将棋界には現れないぞ。お前は俺を知る最後の弟子になるんだ」
「何言ってるんです、」
抗っても簡単に組み伏せられ、残った下着まで剥ぎ取られる。
「師匠!」
「…お前がどんな顔で俺に抱かれてきたか、紫音には黙っててやるよ」
顔が熱くなった。名人は俺を追い詰めるようにベッドへ上がり、足をとらえて開かせる。
「や、」
名人は俺のを咥えこんで、舌を絡ませた。抗おうとしても、放してくれない。
「やめ、やめてくださ…」
吸い上げるようにされて声が出た。
「良くしてやる」
言って、また顔を埋めた。俺のを口で扱きながら、後の穴に触れてくる。
腰を浮かすように膝を立てて逃げかけたが、うまくいかなかった。
「師匠、」
耐え切れず、名人の背中に手を伸ばす。今朝、アイロンを当てたシャツ。覆いかぶさるようにしがみつく。
名人の口腔が熱い。先端を舌が撫でつけ、ヒクヒク震えてしまう穴を指先がひたむきに探っている。
「そんなに、しないで…くださ…っ」
師匠は聞いてくれない。背中を抱えるようにしたまま、我慢した。
「で、出ちゃう、も…」
耐え切れず揺れてしまう腰。名人の喉の奥へ俺のが当たっている。
「師匠、師匠、許してくださ…」
ぎゅっと抱きしめると、名人の口の中へ放ってしまった。体内を探る指が抜かれ、熱い背中が不意に起き上がった。
睨みつけたまま、服を全て脱ぎ捨てる。俺の足を開き、そこが真上になるまで抱えあげる。
「…」
名人は晒されたそこをちろりと舐めた。
「ヤ…ァ」
見ないように目を背ける。ツン、と指を当てて俺が喘ぐのを確認してから、両手で押し広げた。
「…ッ」
舌で撫で、白いものを口から出して塗りつける。
「あぁ…師匠」
名人は悪戯をするように笑い、俺の反応を楽しみながら、そこを押し広げ、さらに精液を垂らし入れた。
指で撫でつけ、塗りこみ、ときには口に指を入れて濡らしてから、そこに挿入する。
「やだ、やだ、師匠!」
さらに精液を吐き出し、穴へ塗りこむ。
「どうだ? 自分のを入れられる感じは」
「嫌だ」
「自分で抱えていろ。入れてもらって嬉しいんだろう」
命令するように言われ、ぶるぶる震えながら、足を抱え込んだ。名人は緊張をほぐすように、優しく体を撫でる。
「お前のことはよくわかっている。期待してるんだ、歩」
髪を撫でる大きな手。頬を撫で、指を差し出す。舐めなければいけないのだと、本能的にわかった。
「ん、」
名人の綺麗な指。咥えこんで、歯を立てないように舌で包んだ。
「本当にお前は聡いな。いいだろう、これから感じることをちゃんと覚えておけ」
指を口から抜き、そこに差し入れる。抜き差しして中で蠢く。俺にさんざん見せつけた後、
猛った名人のものが押し付けられた。
「ァァあ…ッ」
押し開き、入ってくる。俺の精液で、唾液で濡らされた中に入っていく。
「ぁ、あん、あああ、」
「まだ全部じゃないぞ歩、」
「ん、んん、」
ゆっくりと体重をかけ、ペニスで押し広げていく。
「今日はじっくり味わえ」
「あー…っ」
声を上げてしまう。抱えあげていた手も放して喘ぐと、名人は笑った。
無防備な太腿をその大きな手で撫でながら、再びゆっくりと進んでくる。
「あぁ…師匠…」
「どうだ。この追い詰められる感じ、お前ならどう受ける」
「…っ」
首を振る。何も考えられない。
「今は逃げる局面じゃない。ちゃんと考えろ歩」
「ッぁ!」
ズン、と奥に当たる感じがした。大きな息を繰り返しながら、感じていた。
名人はこんなプレッシャーの中で、戦えと言う。
「このままでいたいのか」
名人は笑うと、俺の体を抱きしめてきた。僅かに角度が変わり、吐息を漏らす。
顎を取られる。触れるだけのキスは長かった。温かく濡れて、離れると恋しい。
絶妙な駆け引きで、俺を酔わせて、夢中にさせ、それから突き放す。
苛められて悔しいような気分になって、絡めた指を放した。
名人は俺を見つめ、俺は視線を外す。
「これがお前の発想か。絡め取られていても、あえて無視する。面白い」
乳首を弄られ、体が熱くなる。面白がってちょっかいを出してくる。
「触んない、で…っ」
名人は耐えている俺を、楽しんでいる。
「…」
名人の手を繰り返し払う。体は繋がっていても、なぜかこうするのは妥当だと思えた。
ついに名人は抗おうとする俺の手を押さえつけ、強引に舌を絡めてきた。
「い、や…、っん」
引いた顎も捉えられ、深く吸われる。名人の体に包まれ、逃げ場などないかのように、次々と抗う手を詰まれた。
「や、」
舌を絡めて、吸い上げられる。もう手は思いつかず、どうしようもなくて、腰を浮かせた。
名人のものが中で動き、痺れるような感覚がした。
「歩」
慌てて腰を押さえつける名人の手。
「も…いやぁ!」
抜くことは出来ず、悶える。
「嫌われちゃ元も子もない、お前は俺を見てればいいんだ」
名人は体を起こし、もう一度俺の中へ根元まで入れた。
「もう焦らさないでやるよ」
「ッ」
一定のリズムで挿入される。いつもより不安定な気持ちで、呼吸が乱れた。名人の表情を探る余裕もなく、
シーツにしがみつき、目を閉じて耐えた。
「歩、こっちを見るんだ」
吐息だけが漏れ出して、俺の世界を支配している。
「逃げるんじゃない」
顎を取られ、名人が俺を見据える。
「俺を見ていろ」
膝の裏を抱え、押し上げる。俺はいつも支配されている。激しく追い詰められる。
「行くぞ、」
「…っぁあ、」
奥に吐き出される。名人は目を閉じ、息を荒げていた。この人を受け入れている事実に身体が震えた。
「師匠…」
名人は何も言わず、キスをする。
「…お前の中の熱はまだ燃えきっていない」
俺に触れるうちに、名人はまた中で強くなる。痛みを覚えて、暴れようとしたが駄目だった。
「このまま焚きつけてやる」
「ア、ァあ」
抱きしめられ、密着したままで突かれる。名人の腹で俺のが擦りつけられた。
「今お前の中で、お前と俺が混じり合っているんだ、感じるか」
「ア…ぁ、師匠、師匠…っ」
掻き回され、揺らされる。痺れるような感覚に体を反らした。
肌に唇を這わせ、乳首を舐め上げる。首筋をくすぐり、弱いところをわざと責めてくる。
「ダメ…やだ…ししょ…」
「お前は潔癖すぎる…これだけ開発してやったのに、なかなか折れないな」
耳元で囁く声はぞっとするほど優しかった。手をついて、俺を見下ろす。
「もっと汚してやる。俺を憎むくらいにな」
「ア、…っ、ァああ、」
突かれるたび、押し出されるようにして精液が溢れ出た。
「まだ体が悦んでいる。全て捨ててしまえ歩」
「アッ、あっ…アァッ…」
溢れ出るのも構わず、手で強く握られると、どうにかなってしまいそうだった。先端を指先が弄っている。
垂れ流した精液を一緒くたに擦りあげて俺を苛める。
「いやぁぁ…熱い、熱い、師匠…! もう、」
懇願するように首を振った。激しく突き上げられ、逃げ場もなく揺られた。
「今夜は苦しみも痛みも感じなくなるまで犯してやる。非情になれ、歩。他の誰にも、己自身にもだ」
名人は低い声で言って、奥へ放ち、戒めていたペニスを解放した。呼吸を繰り返す俺を見ている。
「師匠…」
指先で、精液を俺の唇に塗りつける。皮肉っぽく笑う。目を細め、近づく唇。
ほとんど一方的な交わりの合間に交わすには似つかわしくない、傷口を癒すような仕草に、
目を閉じることも出来なかった。
「感じるか? 歩」
浮かんだ涙を見られまいとして横を向いた。でも繋いだ手には力を込めた。
「…はい、」
この人の熱が欲しい。全てを飲み込み、血肉にしたい。
「強くなりたい、です」
指先。声。気配は体の奥で強く、燻っている。
「やっといい顔になったな」
「俺、打たれ強いですよ」
名人が俺の頭を撫でた。愛おしさが伝わり、体の奥で疼いた。
FIN
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修羅を共有する者にだけ伝わる愛とか