Private Blue W サンジは結局、自分が何者なのかを言わなかったが、 ゾロも聞かなかった。 別れる時、乗船したゾロがデッキからずっとサンジの船を見送っていた。 一度だけ手を挙げた。 「…あいつヤリ過ぎだっての」 一人になった船の上で、腰をさする。 少し切ないようで、けれど笑みがこぼれた。 ゾロのような男を知ったことが、ひどくサンジを明るくさせていた。 サンジはタバコをくわえた。火をつけようとして思い出す。 ポケットからあのハンカチを取り出した。 復讐を形にするべく耐えてきたこの数ヶ月間。 計画通りヴィンセントをぶちのめすことが出来て満足だった。 女達の島では、ヴィンセントがボロボロになって 大通りに倒れていた件に関して、目撃証言が一つも出ないままだ。 島を発つ時見た号外で、ヴィンセントが違法の薬を所持していたことだけが 大々的に発表されていた。ヴィンセントは捕まった。 「…」 サンジは無造作にハンカチに火をつけた。ふわ、と燃え上がる。 急いでくわえたタバコを近づけた。 「アチ、」 親指と人差し指を離したら、燃え差しは柔らかく海に沈み、 すぐに波にのまれてサンジの後方へ流れていった。 大した感慨もなく見つめる。ゆっくりとタバコを指で挟んで、 煙を吐き出した。 それはサンジの視界から永遠に消えた。 視界にバラティエが入り、真っ直ぐに舵を取る。 バラティエのそばには、数隻の船が停泊していた。 やがてうまそうな匂いが漂ってきてサンジは笑みを浮かべた。 たった二日離れていただけなのに、こんなにも懐かしい。 「サンジだ! 戻ってきやがった!」 コックの一人が声を張り上げた。背後には西日が差している。 船を繋ぎとめ、バラティエのデッキに立つ。 「帰ってきやがったのか、チビナス。てめえの居場所はもうねえぞ」 ゼフが出てきて上から声をかけてきた。 「クソジジィ…二日間きっちり休暇を貰ったじゃねえか。 訳わかんねえこと言うな!」 サンジは声を張り上げた。 「いっちょまえに色気付きやがって。どうせ、毎週毎週女の所へ 通ってるんだろうが。お泊りは楽しかったか?」 ゼフの言葉に、皆が笑い出した。 「んだと、クソジジィ、悪いか! 馬鹿にすんなっ!」 「おいやめろって」 「サンジ!」 止めに入ったパティとカルネをぶっ飛ばして、階段を駆け上がった。 「サンジ!」 デッキからパティの声が上がってくる。無視だ。 「怪我なんかしやがって、痴話喧嘩か。盛んだな」 上がって来たサンジを見て、腕を組みながらゼフが言った。 サンジの左腕に巻かれたシーツの切れ端が、風に揺れている。 怒った顔をしたサンジが、ふ、と息を漏らした。 「…全部終わったのさ、ジジィ」 サンジはニヤリと笑うと、ネクタイを緩めながら、自分の部屋へ入った。 「ふん、」 ゼフの咳払いが聞こえた。 「てめえら! 何ボサっとしてやがる! 客を待たせんじゃねえ!」 …ああ、バラティエだ。 サンジは含み笑いしながら、ベッドに倒れ込み、 そのままいい気分で意識を手放した。 FIN
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