37.5(ワンピ ゾロ×サンジ)
「…」
ぼやけた視界を、瞬きで修正する。男部屋の天井が見えた。
微かな寝息が聞こえる。
「?」
半身を起こすと目が回った。
生ぬるくなったタオルが額から落ちる。すぐそばで
ゾロが壁にもたれて眠っている。
サンジは自分の額に手を当ててみた。よくわからない。熱いのかもしれない。
確かキッチンで昼の用意をしていたはずだ。朝から喉が痛かったが、
大した事はないだろうと、気にもかけていなかった。
「起きたのかよ…」
ゾロの声に顔を上げる。欠伸していた。
「皆、昼飯食いにいっちまった。チョッパーが安静にしてろとよ」
ゾロはまだ眠そうに瞬きを繰り返している。
「お前が看病? …だったららしくしろよ。
場所変えて寝てるだけじゃねえか」
嫌味を言ったら咳が出た。嫌な咳だった。
世界が回って倒れ込む。
「うっせえな…大人しく寝てろ、病人が」
ゾロがタオルを拾い上げた。水を張った器で絞り、サンジの顔にのせる。
「殺す気か!」
鼻と口を塞いだタオルを取って、叫ぶ。自分できちんとたたんで、
額に乗せた。
「お前仮病じゃねえの?」
ゾロが笑う。こっちの気も知らず。
「最悪」
サンジはやっとそれだけ言って、顔を背けた。
「…」
眠ろうとした。
「…」
目を閉じたまま、顔にかかった髪を払った。
「・・・」
サンジは眉を寄せた。
「見てんじゃねえ!」
起き上がり怒鳴る。もっと力強く叫んだはずなのに、声は掠れていた。
「らしくしろって言ったのはてめえだろうが! 看てやってんのに
何で文句言うんだ!」
ゾロがいかつい顔で怒鳴り返してくる。
「だからってじっと見てる必要ねえだろうが!
気になって眠れねえんだよ!」
こんなに気分が悪いのに、神経逆撫でする奴が何で残る。
「だったら最初から文句言うな!」
ゾロが安眠スタイルに戻る。サンジはカッとした。
「寝るな!」
「あーもー、どっちなんだてめえは!」
ゾロがキレた。
「!」
「おい!」
ふらついたサンジをゾロが素早く支える。
腕に抱かれたまま目が合う。
そっと寝かされた。ゾロはそのまま、
サンジの耳元に手をついた。
「何だ」
ゾロを見上げた。自分は今、情けない顔をしているのだと思う。
ゾロの顔が目の前にあるせいで、体温の上昇が加速している。
どれだけ瞬きしても、目が潤んできて、どうしようもない。
「何だって聞いてんだ、あっち行けよ…っ」
サンジは言った。ゾロは無表情にサンジを見下ろす。
「それ以上近寄るな」
サンジはゾロを制止した。ゾロは意味深に笑い、サンジのシャツのボタンを
はずしていく。熱がまた上昇するのを感じた。
「…あ、頭イテーんだよ」
荒い息を吐きながら懇願する。
「ホント言うとちょっと吐きそうだ…」
ゾロは返事を返すように一度瞼を閉じただけだ。
「こんな時に、からかうな…」
ゾロの指先が肌に触れた。
「あつ、熱い…」
ゾロの手が離れた。冷たいタオルが体に押しつけられた。
「看病らしい看病だろ」
汗を拭いながらゾロがニヤリと笑う。
「…てめえ、」
「治ってからにしようぜ」
潤んだ目で怒ろうとしたサンジに、ゾロが言った。
「看ててやるから、寝ろよ」
「…お前にそんな言葉は似合わねえよ」
サンジは掠れた声で言った。
「もっと体温上げてやろうか?」
ゾロが言ったので、サンジは黙って目を閉じた。
眠ったふりでいた。
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