春のおかず2 (銀魂 銀x新)
僕のおかずは、絶対に、お通ちゃんしかあり得ない。
酢昆布が飛び交い、神楽ちゃんが飛びつき、銀さんに遊んでもらえると思った定春がガブリとじゃれつく。
まさに混沌。いや、もしかしてこれこそ宇宙の始まりとでもいうべきなのか。
いずれにせよ、僕には関係ない。僕はもう、破壊にも創造にも参加しないのだから。
僕は起き上がり、身支度し、筆を取った。
『実家に帰らせていただきます。新八』
僕は誰にも気づかれずに万事屋を出た。
「姉上、今から出勤ですか」
ちょうど実家の門を入ったところで姉上に会った。
「あら新ちゃん、お帰りなさい。今日は泊り込みじゃなかったの?」
姉上もいい着物を着るとそれなりに美人に見える。口に出しては言えないけど。
「ええ、ちょっと…静かなところで眠りたいなあって…」
「そう。お夕飯は適当に食べなさいね。じゃ」
「行ってらっしゃい」
見送って家に入った。
熱い。身体が熱い。何か熱が出てきちゃったみたいだ。
台所へ行って大量の水を飲み、すぐに床に入った。
何でだよ。銀さん。
銀さんが僕に触れる。甘いものを舐めるように、僕を舐める。
僕は銀さんにしがみつく。だって他に、助けてくれそうなものがないから。
銀さんの身体はがっしりしていて、熱かった。
ところどころに、古い傷があって、僕はその傷を撫でた。
一つ一つわけを聞いても、銀さんはあまり覚えていないみたいだった。
銀さんが、僕に触れたら、僕は銀さんを好きだという。僕が言ったら、銀さんが触れる。
自分の言うことに混乱する。していることに混乱する。
どうしよう。これが終わったら、僕は銀さんにどんな顔をすればいいんだろう。
痛いよ。
怖いよ。
銀さん、僕はどうしたらいい?
「…!」
夢から醒めたら、汗だくになっていた。
「…そう、昨日突然帰ってきて。わたし出勤するとこだったから、何事かと思って。
静かなところで寝たいってそれしか言わなかったし、」
姉上の声がした。帰ってきてたんだ。今何時だろう。障子越しの光は明るい。
「そ、そうですか。すんません」
銀さん!
「新ちゃん、起きてる? 銀さんよ」
「寝てます!」
慌てて返事した。掠れ声になっていた。
「寝てたら返事なんか返って来ないでしょう。もう」
姉上が無邪気を装って障子を開ける。
「休みたいから断わってください、ってもう入れちゃってるよ!」
部屋に入ってきたので、鼻まで布団を引き上げた。殊勝な顔をした銀さんが座った。
似合わないんだよ変態男!
姉上はふふふ、と笑い、銀さんに茶を置き、部屋を出て行ってしまった。
不自然に長い沈黙。寝返りを打って背を向ける。
「…何しに来たんですか」
「いや、置手紙が、さ。今すぐとは言わないが、戻ってくるよな?」
「…」
「とにかく、この度はすいませんでしたー!」
銀さんが言った。
「ごめんで済めば、真選組はいりませんよ」
「冷たいなあ。ちゃんと謝ってるのに」
「許してくれるの前提で来てるんでしょ。そういうのがムカつくんですよアンタ」
「えらい辛辣じゃないの。俺のこと好きだって言ったのは嘘か」
「違、あれはノリですよノリ!」
思わず起き上がった。
「熱は出なかったの?」
銀さんが手を伸ばした。額に触れた。
「うわ、スゲー汗」
「もう地獄ですよ!」
宣言するように言ってやる。
「よく出来ますね、あんなこと」
銀さんといると無性にイライラする。
「大体、異常だと思います。食欲を性欲で満たそうなんてサル以下じゃありませんか!」
「…サルからサル以下になっちゃったよ…」
銀さんが呟いた。誰かにサルって言われたんだろう。全く言い得て妙だな。
「そもそも、神楽ちゃんにお使い頼んだのがまずいんです。
食べ物は酢昆布しか買わない。そこにあれば何でも食うが、酢昆布以外は買わないんです!」
「わかってるなあ。確かに俺がバカだったわ」
「そうですよ! ほんっと、銀さんは何も考えてないんだから! こんなんでよく万事屋がまわってましたね。
信じられませんよ。まったく」
「こんなんでまわってたしなあ。でもお前がいるとラクなんだわ」
僕はキレた。
「そりゃラクでしょうね! 細々したこと全部僕がやってんだから!」
「てか、自分で言ってたじゃないのお前」
「?」
「女役の経験者ですか!って。」
顔が熱くなった。
「だからだって言ったらまた怒っちゃうのかね、お前は。俺だって、おかしいなと思いながら、
相手のこと好きだと思っちゃったしね。一種の防御本能なんだと思いたかったけど。まあ傷つきたくないから?
でもよく考えたら元々好きで? 無理やり始まっちゃったから釈然としない気持ちだけ残っちゃったというのかねえ。
でも慣れたらもう、どうでもいいかなと思ったりして。だってこんなことがなかったら、
一生伝えられなかったってことも考えられるし? それも嫌だし。結局なるようになってんのよ。
人間てそんなモンじゃねえ?」
「…」
僕は固まった。
「…」
僕は考えた。
「…」
僕は銀さんを凝視した。
「僕がアンタを好きだって言いたいんですかこのボケェー!!!」
殴りかかったら、拳を受け止められ、身体を抱きとめられる。
「そうだよ。気づいてないとでも思ったか。チラチラ見やがって。そんなに銀さんが好きかァ? ん?」
「違う違う違う!」
頬が熱くなった。僕は思い切り否定して、身体を突き放そうとした。なのに銀さんは僕を抱いたままニタニタ笑う。
「銀さんのおかずを教えてやるよ」
「!」
僕は少しだけ期待した。バカだ。僕はバカなんだ。
「…いちご100%」
銀さんが耳元でそっと呟いた。
「からかいに来たんだったら、もう帰ってください!」
僕は銀さんを押しやって、頭から布団を引っかぶった。
「じゃ…また来るわ」
しばらくして銀さんが言い、障子を閉めた。
Copyright © 2002-2006 SHURI All Rights Reserved