春のおかず3 (銀魂 銀x新)
言っておくが、僕のおかずはお通ちゃんだけである。
しかし人情に厚く、よく働き、レジが打てず、行き場のない僕は、
尻の痛みもそんなに癒えていないうちに万事屋に戻ることにした。
それもこれも、あの銀さんが、なぜか翌日に謝りに来たりしたからだ。
僕は奴の尿まで甘っちょろいと思われるその全てが大嫌いだ。
死んでしまえとは言わないが、簡単に許すつもりはない。
いちご100%だと。人を舐めるな。
その朝。そろそろ帰るかと、道場の戸締りをしていたら、表に原チャリが止まった。
あの足音だ。
「おーい、新八いるかー」
銀さんがガラリと戸を引いたところで思いっきり鉢合わせ。
「…」
僕はすぐに視線を逸らした。
「あれ、え! もう大丈夫なの? もしかして…万事屋に帰る?」
「何もしないでゴロゴロしてると姉上にすまないですから」
出来るだけ事務的に言って玄関を出る。
「じゃあ、ん」
僕は渡されたメットを渋々被った。
「つーか、足開くの痛いんすけど」
「…頑張れ?」
「っとに、誰のせいだと思ってんですか!」
「あーゴメンゴメン」
道場を出発する。姉上はまだ仕事から帰っていない。
昨夜話してあるから大丈夫だが、遠ざかる実家を見ると少し寂しくなった。
「ひとつ言っておくけど、」
銀さんが振り向き気味に叫んだ。
「何ですか」
「俺は片づけが下手だ」
「わかってますよ」
「だけど今回はちょっと頑張った」
「だから何です」
「だから万事屋見ても怒るなよ」
「もう腹が立ってきました」
僕はつかまっている銀さんの腹に思い切り力をこめた。
「弁解してすいません」
銀さんは前を向いたまま言う。
「だから、苦し…運転中だから!」
知るか。
「うんてんちゅー!!」
懐かしき万事屋の看板が見えてくる。スナックの前でお登勢さんがタバコをふかし、
定春と神楽ちゃんがじゃれていた。
「やれやれ。いい年したサルがボウヤ連れて帰ってきたよ」
「サル言うな!」
「新八ィ、ケツだいじょぶか?」
! か、…神楽ちゃん?
「ババァ! 神楽がまた変なこと覚えちまっただろうが!」
「うっせんだよ、家賃払いな! てめーが悪いんだろ、真っ昼間ッから上でサルみたいにヤリャーがって!
あんたよく戻ってきたね」
お登勢さんが僕を見る。
姉上、戻ってきたのは間違いだったかもしれません。
「よかったあ、新八帰ってきて」
神楽ちゃんが笑顔で言う。帰りそうになっていた僕の腕を取って階段を上がっていく。嬉しいけど痛い。
「もう部屋ん中大変アルヨー!」
遠慮なく戸を開けると、戸がはずれた。そこには一面の小宇宙が広がっていた。
そうですか、やっぱり僕はキミにとって掃除係でしかなかったんですね。神楽ちゃん。
「で、これで片付けたって言い張るんですか」
「頑張ったのよ〜、銀さん」
「うんうん。銀ちゃんよくやったよ!」
「オメーは手伝えっちゅの!」
僕は深く溜息を吐く。
「…まず、神楽ちゃんは定春連れてって散歩。出来るだけ疲れて帰ること!」
「エッ。遊びに行かせるの」
「定春がいたらまた大変ですよ」
「りょうかーい! 銀ちゃんガンバレヨ!」
「…」
納得いかなそうに銀さんが見送った。
「つーか、もう、このままにしておきましょうか、いっそ」
「はぁ?!」
銀さんの声が裏返る。
「ソファなんか置いてるからあんなことになったんだし。そもそもゴロゴロ出来る場所があるのが間違いなんです。
銀さんいっつもソファでジャンプ読んで寝ちゃうじゃないですか」
「いや、でもお客さんが来るでしょ、ここ」
「客なんて来ねーじゃん、全っ然」
僕は嫌味をこめて言ってやった。
「し、新八君? 今キャラが変わったよ?」
「あのねー。本気で片付けない人がいるかぎりダメだと思いますよ。アテにされちゃたまんないっすよ」
「いや、本気でやるから。マジで。ごめんね、新八君」
「まあ、気ままな一人暮らしとは違いますから、僕がいた分は手伝いますけど」
「よし、じゃあ何からやろうか新八君」
「ガラクタになったもの運び出しちゃいましょう。直せるものはこっち」
「よし!」
キャラが変わってるのは銀さんのほうだよ。無理してる。
なんだかなあ。
「で、結局ソファ元に戻してんじゃないですか!!」
ひと段落ついて、二人して思わずかけていた。
「これがないとダメだね。もう俺の身体の一部みたいな?」
銀さんはまたジャンプを取り上げる。やっぱりこれだよ。
諦めて立ち上がった。
「僕、お昼の買い物行ってきます。どうせ酢昆布でも食ってたんでしょうずっと」
「お。おう、いや、俺が行く、つーかお前休んでていいから、な!」
銀さんはジャンプを放り出し、慌てて出て行った。
何なんだ一体。変に労わられて、調子が狂うなあ。
「ふぅ…」
立ち上がり、部屋の中を見回す。とりあえずキレイになった。誰もいなくて静かだし。
銀さんの椅子に座る。くるくる左右に回ってみる。何気にいい椅子だ。
「…」
いつもの万事屋を思い返した。
銀さんがいて、神楽ちゃんがいて、定春がいて、それから僕。それが万事屋。
戻ってきちゃった…。
デスクに伏せると、すぐに眠気が襲ってきた。
不意に身体が浮いた。何。超常現象?
「意外に重、いねコイツ…抱き心地良かったのは身が締まってたからですか、と」
銀さんの低い呟きが降ってきたけど、何だかすぐに聞き逃した。
寝かされる。ソファだ。銀さんの身体に合わせて凹んでる、気持ち悪いソファ。この感じ。
「何で椅子で寝てんだよ。手間だろーが」
あ、何か眼鏡取られた。
「ん」
取り返そうと手を上げると銀さんの手が重なった気がした。でかくて大人。
そっと握り、指が絡む。
しんぱち
呟く微かな声。手の甲に押し付けられる温かさ。
何。今じわりと来た。
「なーんてな。起きねーとまた犯すぞ」
「ひゃ!」
胸元に入り込んだ手をすばやく掴んだ。恐怖のあまり、はっきりと覚醒した。
「何すんですか!」
「お前今寝てたよな。確かに寝てたよな」
「? 何かしたんですか。したんですね?!」
「してねーよ。もういいから」
銀さんは頭をかいた。
「あ! ちょ、眼鏡、眼鏡返してください。ぼやけて見えないんですけど!」
「やだね」
「目、悪くなりますよ」
銀さんは答えなかったけど、昼飯を作るぼやけた後姿は結構イケていた。
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