春のおかず5 (銀魂 銀x新)
僕のおかずはほんとうにお通ちゃんなのか。
これはもう理性を越えた問題なのだ。
ここ最近、僕は銀さんのことばかり、考えている。
「神楽ちゃん…」
「ん?」
酢昆布を噛みながら、神楽ちゃんがテレビから目を離しこっちを向いた。
定春はご機嫌らしく尻尾を振っている。
銀さんはジャンプの早売りを入手しに隣町まで行ってしまった。
「最近、銀さんキャラ変わってない?」
「銀ちゃんおかしいの、今に始まったことじゃないネ」
「いや、元々おかしい人なのはわかってるけど、いまひとつボケ足りないとか、
詰めが甘いとか、無駄に優しいとか、何か前と違うじゃない」
「あー」
神楽ちゃんは視線を上にやった。思い返しているのだろう。
「まあ、キニスンナ! 新八も酢昆布食べるカ?」
「あ、ありがとう」
だめだ、こりゃ。
話ができる人がいないんだよなあ。銀さんに関しては。お登勢さんじゃちょっとアレだし、
他には…。
って探したところで原因はきっと僕なんだ。
「ちょっとその辺散歩してくる」
「アイヨー」
かぶき町界隈は人が多い。
あてもなく歩いてるのは、たぶん僕一人なんだろう。
「おい、銀時のところの」
呼ばれて振り向くと、桂さんがハデなはっぴを着て呼び込みをしていた。エリザベスも一緒だ。
「桂さん。またバイトですか」
「またとは失敬な。これも日本のためさ。銀時はどうした」
「銀さんならジャンプ買うってどっか行きましたけど」
「相変わらずだな。遊びに来いと行っておけ。たまには日本の未来に貢献してもいいだろう」
「どういう理屈ですか」
「銀時が遊べば俺にバックされる。その金は未来のために使われる」
「…」
桂さんはオニーサーン、イイコイルヨー!と声色を変えて叫んだ。
「呼びとめて悪かったな。行っていいぞ未成年」
エリザベスが、またな。と書いた看板を見せた。
「…じゃ、」
銀さん、変な知り合い多いよなあ…。
類は友を呼ぶってホントだな…。
…て、銀さんのことなんか考えて、僕は一体どうしたいんだろう。
そもそも、僕がこうなったのは銀さんがあんなことをしたからだ。
ああいうことは、やっぱり愛とかがないと成立しないと信じたい。
だって僕はまだピュアで繊細で妄想いっぱいの十六歳ですよ!
百歩譲って白状すれば、ハダカには興味あります! でも!!
あんな穢れた奴のお陰で、頭の中がぐちゃぐちゃなんですけど!
キライとかスキとか、ムカツクとか、寂しいとか、つれないとか、ウザイとか。
「あああーーっ! 糞! 糞野郎!!」
声を上げたら、注目を浴びた。
慌てて人ごみに紛れる。
それもこれも全部銀さんのせいだ。
殊勝な顔で謝りに来たときだって、全然謝罪になってなかった。
順番なんてどうでもいいなんて、過去になっちゃったから言えることだろ。
弁解にしかなってないよ。
ちゃんと謝れ、
僕に謝れェエエ!
大体、銀さんのおかずだって未だ聞いてない。
僕は結構根に持つし、引きずるタイプなんだ。
許さない。
キッと顔を上げたら、頭頂部が誰かにぶつかった。
「イッテ…!」
僕は頭を抱えた。相手は震えながら顎を押さえている。
「すいません。ほんとすいまっせ〜ん!」
「いや、俺もよそ見…」
顔を上げると、相手は真選組の副長だった。
「…お前か。この間はうちの局長が…」
「ああいえ、こちらこそ助けてもらって…」
「お互い大変だな」
土方さんはそう言って、少しだけ笑った。制服ではないから、非番なのか。
「…お前、今暇か」
考えてるな、と思ったら次の瞬間にはそう聞かれた。
「え、あ、ハイ。暇というか、なんというか」
「ハッキリしろ」
「ハイ暇です!」
「じゃあ、ちょっと顔貸せ」
は、迫力。
銀さんはあんなだから、何となく勝てる気がするんだけど、この人は無理。この威圧感。
「ここどこですか」
土方さんは屯所に決まってんだろ、と呟いて、門を入っていく。
「僕、部外者ですけど、いいんですか」
「上がれ。ここじゃ俺がルールだ」
か、カッコイイ…! とか思ってる場合じゃなかった。どんどん奥へ入っていく。
「近藤さん、」
造りのいい襖を開けると、飲んだくれたストーカーがいた。
「おうトシ! あっ、新八君じゃねーか。よくきた」
「飲みすぎじゃねえのか近藤さん」
「座れ! 座れ弟!」
勧められてしょうがなく座る。
「お前の姉ちゃんによー、これやる」
近藤さんが懐から出したのは、高価そうなかんざしだった。
「駄目ですよ。あげたいなら、姉上に直接渡してください。勝手に受け取ったら僕が半殺しの目に遭います」
「なんでだよーっ。昨日おめーの姉ちゃんにも断わられたばっかなのによー」
近藤さんはオイオイ泣き出した。
土方さんがうんざりした顔で身体をさすり、もう休めよと声をかける。
まもなく近藤さんはいびきをかきだした。やっと解放されて部屋を出る。
「すまねえな。あの人聞かねえからさ。道理なんかとっくにわかってんのにホント、ガキみてえで」
「…僕、もう帰ってもいいですか」
「まだだ」
僕は土方さんについていった。
「俺の部屋だ、ラクにしてろ」
畳の匂いが新しい。花が生けてあったりして案外、風流人な感じがする。
だけど掛け軸の絵はなぜかマヨだ…。
首をかしげていると、土方さんは桶と手ぬぐいを持って戻ってきた。
「頭出せ」
手ぬぐいを絞る。
「ハイ?」
「タンコブ出来てんだろ」
「イタッ」
手ぬぐいを当てると、土方さんも自分の顎を押さえた。
「ったくどこのガキかと思ったら、お前とはな」
「…すいません。周りが見えてなくて」
「姉ちゃんのこと以外になんかあったのか?」
「え?」
「うちの近藤のことでお前の姉さんに迷惑かけてるのは謝る」
「いや、あの」
きちっと頭を下げられてしまって、何だか恐縮する。でも顎に手ぬぐいのままじゃおかしいですよ。
「…僕、ある人に振り回されてるんですよね」
思わず喋ってしまっていた。
「何でだ?」
「いや、すいません。何でもないんで」
現場を見られて助けてもらったし、名前を出さなくても、そもそもバレてる。
「聞いたもんは白紙に戻せねえな。言え」
「ハ、ハイ…」
僕は思わず袴を掴んでいた。
「あることがあって、ちょっとその人とおかしな関係になっちゃったんですが」
「ほう、つまり、男と男の関係に」
「現場見たからってあからさまに言わないでください!」
「俺は人生経験豊富な男だぜ。あのくらい驚きゃしねえ」
「…。僕はちょっとだけその人に惹かれかけたんですが、なんとか踏みとどまり、」
「ああ」
「普通にしているつもりだったんですが、今度はその人のほうがどんどん僕に深入りしてきて」
「つまり、奴がお前に優しいんだな?」
「…」
「…」
「見事な要約です」
「いいじゃねえか。何か不満なんだ。問題あんのか」
「いや、問題だらけですよ。つか男ですよ。ダメですよ!」
「お前はどうなんだ?」
「えっ?!」
ずれた眼鏡を押し上げる。
「あん時お前奴にメロメロに見えたが。あいつの脳天殴りながら、ヤボやっちまったかと思った」
「や、この状況の始まり方といい、展開といい、全てが気に入らないんです!
大体、痛かったです。もうああいうことはしたくありません!」
「頭で考えんなよ。あいつハートの部分ではからかったり嘘ついたりできねー男だぜ」
「いや、もうからかわれてるし、嘘もつかれてます! 僕が言いたいのは…」
「副長! 例の万事屋が…」
呼びに来た隊士が、襖を開けた瞬間に倒れた。
「新八、何してんだこんなとこで!」
銀さんはらしくなく熱かった。
「銀さん!」
「頭どうした! このォ顎!! なんだてめーはうちの新八に何した!」
「何もしてねーよ。往来でぶつかっただけだ。イライラすんなよ」
土方さんは顎と呼ばれて心外だったのか、手ぬぐいを取った。
「見ろよ、お迎えだ、お前が悩むことなんかひとっつもねーっての」
「土方さん…」
見つめあう僕と土方さんを見て、銀さんが勘違いするのに時間はかからなかった。
僕は涙ぐんでいたし。
「てめー!」
「銀さん、違うって!」
「おめーは真選組屯所で何やってんだ。ホイホイついて行くなバカ。銀さん大勘違いじゃねーか。
あのヤローに借り作っちまった」
ヅラの奴、大げさなんだよ、とか何とかぶつぶつ言っている。
「だって、ついて来いって言われたんですよ、お役人ですよ、あちらは」
「何もされてねーだろうな」
「銀さんが心配するようなことは何もないです」
「乗れよほら」
メットがたんこぶに当たって痛かったけれど、言わなかった。
銀さんの原チャリが走り出した。僕がもどかしく感じるほど、とろとろ走った。
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