二人と一匹 [2] (ワンピース パラレル ゾロ ナミ サンジ)

金持ちの子息、というのを、久しぶりに間近で見た。
下積み時代に、ハイソな両親に連れられてくる子供を良く見た。
上品な家庭もあれば、所謂成り金の、行儀の悪い家族もいた。


ナミの友人達も色々だった。
どちらかというと、金のありがたみなんか全く考えてない。
あるから使うだけ。そういう感じだ。
彼女らにとっては、金とは自然にあるもの、らしい。
新しいスーツを買った。シャツの替えも、下着も、エプロンも。 あとは普段着を二揃い。パジャマ代わりのスウェットにTシャツ。
見苦しくないものを買うのに、三十万も要らない。
無断だったけれど、バスルームを使わせてもらって、体も洗った。 帰ってきたナミがサンジを見てにっこりと笑ったので、 合格点は貰えたと思う。
「ねえ、コックさん、ワインをお願い」
黒髪の美人が、料理を運んで来たサンジに行った。
「はい、」
空の瓶を受け取って、キッチンへ引っ込む。
買い出しに出た時に、郊外の外資系大型スーパーに配達を頼んだが、 そこに揃っていなかったら、どうしたかわからない。 首の皮一枚で、繋がっていっている。
行き届いたシステムキッチンは、街中の小さな喫茶店よりも 充実していた。コックを雇うだけのものが揃っている。 家庭で主婦が料理する世界ではないわけだ。
サンジはワインセラーから、じっくり見繕ってリビングに戻った。 黒髪の彼女のグラスに注ぐ。 女の子たちは皆可愛い。 少し病弱そうな金髪の少女はカヤと呼ばれて、ウェーブした髪を 束ねた少年のホラ話を笑って聞いている。
さっきから肉ばかり食っている下品な奴はルフィと呼ばれていた。
一人静かに飲んでいるのはロビン。さっきの色っぽい美人だ。 年が上らしく、少し離れて皆を見守る感じだった。
水色のロングヘアをアップにした少女はビビ。ナミと仲がいいらしく 話がはずんでいた。育ちの良さを感じる笑みだ。


料理は本物指向。高級食材というよりは、品質管理が行き届き、 味のいいものを選んで使った。 乞食に一歩近づいた生活から、いきなり舌の肥えた人間の食事を 作らされて、ひどく緊張した。
「すごくおいしいわ、サンジくん」
ナミがキッチンへ来て声をかけた。
「そ、そうですか! 良かったです、ナミさん!」
「デザートも期待してる」
「ナミさんの為ならどんなものも作ります」
「ありがと」
ウィンクして出て行く。
「かわいいなあ…」
鼻の下を伸ばして見送った。
さあ、最後の詰めだ。
冷蔵庫のフルーツと、桃のゼリーを取り出す。
冷凍庫のアイスケーキにチョコレートソースをかけ、 ワゴンで運ぶ。
女の子がひときわ高い声でわあ、と声を上げた。
冷やしたケーキ皿とフォークを配る。人の喜ぶ顔を見るのは幸せだ。


「お疲れ様、来ていきなり仕事だったから、大変だったでしょう」
友人達を見送り終えたナミが声を掛けてきた。
キッチンで、雑誌を読みながら、 サーバーに残ったコーヒーを飲んでいたところだ。
「あ、いえ、ナミさん。これくらい、コックならこなせます!」
いい格好をしようと言いきってみる。
「あなたの部屋、案内するの、忘れてたわね。来て」
「はい、」
サンジは雑誌を置いて立ち上がった。
黒い扉だった。ナミは鍵を開けて、明かりを点けた。
「!」
ベッドにクロゼット。バスルームもついていた。 壁紙は白地にブルーグレーの花模様。 カーテンを開けると、ベランダからは夜景が見える。
「ここはね、」
サンジが自分の運の良さに感激していると、ナミが口を開いた。
「私のペットのお部屋よ」
「?」
意味がわからなくてサンジはナミを見つめた。ナミが笑って、 サンジの首にリードをつけた。
「あの、」
「今日から私の犬よ、サンジくん。ちゃんとお座りなさい」
唇が触れるかと思った。ナミはすい、と顎を引いて、微笑んだ。
「お座り」
サンジは困った。とんでもないことになった気がした。さっきまでの 浮かれた自分を心で激しく罵った。
「俺、は…」
サンジはその場にしゃがんだ。何やってるんだ、逃げろよ。 金なんかどうにだってなる。返せるさ。いや、もうちゃんと 働いたし。
「いい子ね。私の部屋で一緒に寝る?」
膝をついてナミが頭を撫でた。
心臓が激しく脈打った。




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