二人と一匹 [10] (ワンピース パラレル ゾロ ナミ サンジ)
夕方、ナミが心配そうにサンジの部屋を覗き、ビビ宅へ出かけて行った。
ナミをベッドから見送ったあと、サンジはまた寝入った。
起きると午後九時をまわっていた。
一日中眠ったので、少し気分が良くなっていた。
寝汗を拭きながら、キッチンへ出てきて、
冷蔵庫のオレンジジュースを失敬する。
「おい、大丈夫か」
背後からゾロの声がしたので、サンジはグラスを取り落とした。
「そんなに驚くなよ。仕事切り上げて来てやったのに」
ゾロは上着を脱ぎ、ネクタイを外して、ボタンを二つほど開けていた。
シャツの袖をまくってしゃがむ。
飛び散ったガラスの破片を拾い始めた。
「何で…、」
「動くな」
ゾロはそれきり黙った。サンジは布巾を取って、しゃがんだ。
零れたジュースを拭き取った。
断ったのに、心配して呼んでくれたんだ、ナミさん。
自分で逃げ込んで風邪を引いたバカのために。
サンジは唇を噛んだ。
手を伸ばしてビニールを取り、布巾を入れた。
袋をゾロの方へ差し出した。
ゾロは受け取って、集めた破片を入れた。口を結んで空き瓶の上に置く。
「そこにいろ」
ゾロが言って、どこからか携帯掃除機を持ってきた。
几帳面に隅々まで吸い込んで、切る。
音が無くなったら、どちらともなく溜息を吐いた。
「大丈夫か」
「ああ」
サンジは首にかけたタオルで口を拭いた。
「俺が悪いんだ。あんたに世話になるほどじゃないから、」
サンジは言った。
「…俺のせいか?」
ゾロが聞いてきた。ゾロの瞳を思わず見た。すぐ目を逸らした。
フラッシュバックのように、激しくキスした後の、ゾロの視線が蘇った。
体が熱くなった。
「何の話かわからねえ」
サンジは逃げるようにすり抜けた。
「待てよ。何で抱かなかった」
「筒抜けかよ! そうだよな、お前ら許婚で恋人同士だもんな」
カッとしてサンジは怒鳴った。恥ずかしかった。
昨日帰って来た時、ナミさんの柔らかい胸の感触なんて振り切って、
本当に逃げれば良かった。
「バカ。ただの勘だ。ナミは何も言わねえ。
どうせ、俺のところに置いていって、後から惜しくなっただけだろ」
ゾロが言う。サンジは黙っていた。
「元々ナミが悪いんだ。お前本当に犬になっちまったんだろ?」
「!」
サンジは小さく震えた。
「お、俺が犬になろうが、どうしようが、お前には関係ねえ!」
「だったら何でムキになってるんだ?」
ゾロの手が強く肩を掴んだ。
「…っ」
こいつが俺にあんなキスをしなかったら。
もっと早く、ナミさんが俺を抱きしめてくれていたら。
俺は据え膳を残さず食っちまったはずだ。
なのに、順番が狂った。
ナミさんが好きだ。
だけどゾロに勃起する。
「お前のせいだあ!」
下を向いて叫んだら、声が震えた。
「俺は、ナミさんといられたらそれでいいんだ…っ」
ゾロは黙っていた。
「離せ変態野郎」
暴れると、廊下に引っ張り出され、壁に押し付けられた。
「落ち着け、熱が上がる」
「離せ、畜生」
ゾロが無理矢理に抱きしめてきた。必死で押し戻した。
叩いたし、蹴った。ゾロはビクともしなかった。
「畜生、ムカつく…っ」
ゾロがキスしてきた。ゾロはサンジを抱いたままペットルームに入って、
後ろ手にドアの鍵を閉めた。
「嫌だ」
ベッドに投げ出された。オレンジの染みが出来たシャツを
剥ぎ取られ、ズボンを下着ごと引き下ろされた。
「本当はあの朝ヤっちまうつもりだった」
低い声で恐ろしいことを言った。サンジは蒼白になった。
「でもそれじゃ、あまりにもお前に悪いと思ったからよ、どうせナミも
後悔するんだから、一晩チャンスをやったってだけだ」
サンジは信じられなくてゾロを見つめた。
「ナミじゃなくて、俺に感じたんだろ、」
「違う」
サンジは這い上がるようにして逃げた。
「簡単なことだ、認めちまえ」
足を掴まれた。ずるずると引き戻される。
片足を手錠でベッドに固定された。
「やめろ、」
尻を撫でられて、サンジは抗議した。
「別に女扱いするつもりはないぜ」
ゾロが言って、ぬるぬるするものを、サンジの体に垂らした。
「確かにナミの好みかもしれねえ…」
「やめろ、嫌だ、」
体の芯を熱くする指の動き。
「女みたいな面して、気も優しい。表面上は相手に合わせるが、
本心からは懐かねえ。…俺も好みだぜ」
ゾロが鼻で笑った。ベルトを解く音。
必死で足を動かしたが、手錠はがっちりとかかったままだった。
犯られる
サンジは耳を塞ぐようにしてベッドに顔を埋めた。
何も聞きたくなかった。認めたくなかった。
サンジは興奮していた。
「本当はもう逃げたい。でも快感には弱いんだよな?」
ゾロが腰を掴んだ。
「やめろ、嫌だ…嫌だああ!」
体の奥に進入してきたものを、認知する前に気が遠くなった。
気がつく度に懇願したが、許されなかった。
何度目かの目覚めで、やっとゾロはサンジを抱え上げてシャワー室へ入った。
「また放心状態か」
ゾロが言って抱きしめてきた。シャワーの湯は少し熱め。
サンジはじっと壁のタイルを見ていた。
「…なあ、ナミのそばにいてやってくれ」
サンジは意外な言葉に視線を動かした。ゾロと目が合った。
すぐに逸らした。
サンジは黙っていた。体の奥で疼く痛みに眉を寄せたら、
ゾロがもたれさせるように、サンジの体を強く抱きなおした。
「…お前ら、恋人同士だろ」
サンジはガラガラの声で言った。叫び過ぎて喉が潰れたらしい。
「体の相性はいいぜ。でも考えてることは全くわからねえ。
人当たりも悪くねえし、美人だし、頭も悪くねえけど、な…」
ゾロはサンジを見て、また視線を逸らした。
「いや、全部わかってんだ、ナミには俺も必要なんだろうってな。
ナミと俺はすげえ似てる。だから何でもわかっちまう」
サンジは嫉妬のような気持ちがわいたのを押し隠すように、
口を引き締めた。
「最初の頃は楽しかったぜ。でも分かち合うほど、自分に退屈しちまうんだ。
あいつは俺じゃないものを求めてる。俺もだ」
やっと腑に落ちた。
感覚ではわかっていたけれど、言葉に出来るほどではなかった。
二人は似ている。翻弄されて混乱したのはそのせいだ。
…嫌いだ。
もやもやと、胸の奥が苛立つ。二人とも、
迷惑で、我侭で、自分勝手。
けれど胸が熱くなる。
「お前にはナミさんの良さなんてわからねえ、」
サンジは言った。ゾロが笑うように小さく息を吐いた。
「わかってんのか? お前もう、ナミの前ではオスになれねえんだぞ。
…俺はそれでもいてやってくれって、無理を言ってんだ。
お前は怒るべきなんだ」
わかってる、サンジは呟く。
「俺がずっとそばにいる。一緒にいる。
どうだ、てめえには出来ねえだろ」
どうしてか、涙が落ちた。悔しいからゾロを睨んだ。
「出来ねえよ…」
ゾロは小さく笑うと、サンジの頬にキスした。
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