二人と一匹 [14] (ワンピース パラレル ゾロ ナミ サンジ)
「サンジさん、大丈夫かい? 顔色悪いぜ?」
ギンがピラフを掻き込みながら言った。
警備員詰め所はロッカーがあるだけでとても狭い。
奥のドアの向こうに簡易ベッドが見えた。
「早く出てった方がいい」
はっきりと言いきったギンを、サンジは見つめた。
「…ここの人たちは皆、違う世界に住んでる」
ギンがマジな目でサンジを見つめた。
「ギン、」
「サンジさん、金じゃねえ。自分に誇りを持って仕事出来るところ、
ちゃんと探すべきだ。あんた、ここに来たときはもっときれいな瞳をしてた」
「うるせえな。そういう問題じゃねえんだよ」
サンジは言った。タバコを噛む。
「自分でもわかってるんだろ。あんたはもう自分を見失ってる」
「…それは当たってるかも」
サンジは視線を落とした。
「…あいつら、すごくいい奴なんだ」
サンジはナミや、ゾロ、二人がディナーに呼ぶ友人達や、
ハウスキーパーを思い浮かべた。
「ああ。ここに住んでる人たちも、知り合いも、雇われてる人達も、
皆、いい人達だ。サンジさん、あんたも」
「…世界が違うってことだけじゃない、色々あったんだ」
ギンの視線が動揺したように動いた。沈黙。
ギンはもしかして、あの遊びを知っているのではないかと、
思わずサンジは勘ぐった。そんなこと、あるわけない。
「…俺が言えることは言った。あとはサンジさんの好きにすればいいんだ」
ギンがぐっと口を引き締め、頭を下げた。
「ごちそうさまでした」
「…」
昼間のギンの言葉を思い返しながら、機械的に口へ料理を運ぶ。
二人の夕食を片付け、今はキッチンで一人、
遅い夕食を摂っていた。
「おい」
キッチンに入ってきたゾロのせいで、我に返った。
「何だ?」
改めてゾロの顔をまじまじと見つめてしまった。
この場所を出て行かなければならない理由なんて、ない。
全て揃っている。逃げ出す必要のある環境ではない。
出て行く理由がない。離れたく、ない。
ゾロのスカッとした気持ちのいい容貌を見ていると、安心する。
「何だ、そんなに見るな、気味悪ぃな」
ゾロが頬を少し紅潮させた。
「明日の晩またうちで集まるから、頼むぞ。この間と同じメンバーだ」
「わかった」
「お前、大丈夫か? ぼーっとして」
ゾロが視線を合わせてくる。恥ずかしくて横を向いた。
「どいつもこいつも…。余計なお世話なんだよ!
ナミさんと遊ぶんだ。そろそろ遠慮してくれ」
呆れたようにゾロが笑った。
「余興はこれからか。見ててやろうか」
一瞬そんな光景を思い浮かべる。
「帰れ!」
打ち消して怒鳴った。
「ま、焦らなくても明日があるからな」
ゾロの言葉で、前のことを思い出す。
「もうあんなのは嫌だ!」
キッチンから出て行くゾロの背中に叫ぶ。
「何が?」
ナミが背中に呼びかけてきてサンジは振り向いた。
「何でもないです、ナミさん。おい、あんなことしたら、
ただじゃ済まさねーからな!」
ゾロはにやにや笑ったままだ。
「じゃ、明日の晩」
ドアに手をかけてゾロが言った。
「うん」
ナミが手を挙げてにこりと笑う。
「ひっつかまえて来いよ、コイツ逃げ出すかも」
ゾロが顎でサンジを差してドアを閉めた。
「…ゾロの言う通りね」
「えっ」
「顎上げて、」
言われるままにすると、リードを付けられた。
「ご飯は食べ終わった?」
「ま、まだです…」
「じゃあキッチンへ戻りましょう。ナイフもフォークも使っちゃ駄目よ」
「あ、あのナミさん…! 明日は、」
「今が大事よ、」
ナミが振り向き、ウインクした。
「ナミさん!」
ひっぱられながら、サンジは顔がほころぶのを感じた。
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