二人と一匹 [17] (ワンピース パラレル ゾロ ナミ サンジ)

深い眠りから、いきなり目が覚めた。
「ナミさ…ゾロ?」
前髪を払いながら起き上がる。 カーテンは開かれ、光が射し込んでいる。 白いシーツが目に眩しい。 二人の体温はすでに冷えて、ゾロの広いベッドには サンジだけが取り残されていた。
「…」
もう一度枕に顔を埋める。意味もなく唸ってから、不意に時間に思い当たり、 起き上がった。十時を過ぎている。
「うっわ、飯!」
慌ててバスルームへ入る。髪から雫を落としながらキッチンへ行くと、 笑い声が聞こえた。そっと覗いた。
「だからー、」
ナミが、背中からゾロを抱きしめ、フライパンを指差している。
「うっせえな。黙って見てろ。皿出せ、皿」
「ほらー。黄身が潰れたじゃない」
「口だけ出すな!」
「出すわよ、口あるもん」
ナミはゾロの横に来て可愛らしく唇を尖らせる。 当たり前のようにゾロが軽くキスをする。朝の光の中、恋人たちの朝。 完全に、入るタイミングを失った。
「これでいい?」
ナミが食器棚からプレートを三枚取り出す。
「おう」
「コーヒーにする? 私は紅茶。サンジくん何飲むかなあ…」
カップを選びながらナミが呟く。
「俺はコーヒー」
ゾロが答えた。俺は紅茶で、と出ていこうとして、ナミの声に遮られる。
「そうだ、新しいカフェのコンセプト、決めたわよ」
「ん?」
仕事の話らしい。サンジはまた壁に隠れてごしごしと髪を拭いた。 掛け違えたボタンに気づき、掛け直す。 ゾロのと、ナミのと、キスの跡がまだ残っている。
「…やっぱり、ゴシックでいくわ」
「お前の趣味は薄味にしてくれ」
「わかってる。入りにくい雰囲気にはしないから。 イメージは縛られたサンジくん」
し、縛られた俺…? 思わずまた聞き耳を立てる。
「お前な…」
ゾロがウンザリした顔でナミを見ていた。
「女の子がキレイに見える店にするの。 こう、顔色がキレイに見える配色とか、ライトとか。 気持ちがロマンチックになるようなインテリアにする。 昼間はカフェにしてドリンクとケーキを出すでしょ、夜はダイニングにして オーガニックの料理を出す。お金落とすのは女性よ。 お前に任せるって言ったじゃない」
「言ったけど、どっからサンジが出てくんだ…」
「だって可愛いじゃない。それにサンジくんといると 女の子になれるんだもん。 生活の全てにヒントがあるんだからね。 男の人って仕事の中でしかものを見ないから駄目なのよ」
すらりと長い足を開き気味に、ナミがえへん、と両手を腰に当てた。
「ほら、お湯沸いてる!」
ナミが叫んでゾロがスイッチを切った。泡立った湯が大人しくなる。
「サンジくんのケーキ、レシピ売ってくれないかなあ」
ナミの言葉に、サンジは瞬いた。
「甘いもの好きのミホークおじさまが褒めてたじゃない? ビビやロビンも喜んでた。売りにしたいんだけどなあ…。本音じゃ、 サンジくんを雇いたいくらい。 でもそうなると、私たちのご飯に困るんだよね〜。 あ、店に食べに行けばいいのか。解決!」
「この件にサンジ引き込むのは気が進まねえ」
ゾロが俯き気味に頭を掻いた。
「あんないい仕事するのに、私たちの飼い犬でいいと思ってるの?」
ナミが言う。
「思ってねえよ。ただ、俺らの企画に関わらせるのは…」
「何よ、サンジくん犯してたくせに!」
ナミさん、そんなあからさまに叫ばなくても…。
隠れたまま涙を拭く。
「俺はどうせなら、完全に俺たちとは関係ない場所で働けるように、」
「何よそれ」
「とにかく、サンジのことは振り回すな」
「ふうん…優しいんだ」
ナミの辛辣な一発が、ゾロの心にめり込むのが見えた。 俺が言われたら泣く。サンジは思う。
「…前から思ってたけど、お前、俺にはかなりきついよな」
「だって見た目がコワモテなんだもん。ナイーブなゾロなんて気持ち悪い。 強がっててね。私のために」
ナミの腕が差し出されてゾロの髪を撫でる。 あんな可愛い恋人に言われたら、悲しくても強がっちゃうぜ。 ゾロに思わず同情する。
「じゃあ、優しい俺がサンジを起こしてくる」
「よし。テーブルセッティングは任せて」
ナミがプレートを取り上げて、奥のドアから出ていった。
「聞いてんじゃねえぞ、コラ。何飲む?」
ゾロが廊下に顔を出した。キッチンから出て、ドアを閉める。
「…コーヒー」
見つめあったまま答えた。さっきは紅茶のつもりだった。
ゾロの視線が離れない。濡れた髪をかきあげて、額にキスしてきた。
「なあ、ゾロ」
「ん?」
「俺、どうしたらいいか…わかんねえよ」
ゾロが考えるように瞬く。
「…俺もだ」
思わず、抱き返した。
「俺…どさくさに紛れて童貞卒業しちゃったんだよな…お陰さまで」
呟くと、ゾロが背中をぽんぽんと叩いた。変な絆が生まれた。
「なんつーか…、パワーあるよな…女って」
ゾロが恐る恐る言った。頷く。思わずぎゅっと抱き合っていた。




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