箱の中の憂鬱 六(銀魂 銀時×新八)
「銀さん」
思い切り抱きしめる。新八が抱き返してくる。
「銀さん、僕のこと好きですか…まだ」
新八が俺を見る。額に、瞼に唇を押し付けて、そのまま倒れこんだ。
「もうずっと好きだって」
新八の唇に触れる。
行くか、俺。やっと行けるのか。二ヵ月半ぶり。
新八の身体をまさぐりながら、懐のものを確認、驚愕。
見覚えのない包み。さっちゃん用と落書きしてある。ご丁寧にハートマークで囲んである。
あのアマ…!
コンドームすり替えやがった!
万事屋生活に入ってからこっち、これほど殺気立ったことがあるだろうか。いやない。
俺が買ったのは使用感の少ないうすうすタイプだぞ! つぶつぶ付きってなんだ、卑猥な。
こんなもんデリケートな新八君に使えるか!
怒りのあまり震えていたら、新八が不安そうに見上げた。ブツを袖に隠した。
やっとの思いでトラウマをいい思い出に変えようってとこまで来たんだぞ!
今の新八に更なるトラウマを与えてどうする。
「銀さん、」
新八は俺の袖を掴んだ。手を重ね、握った。
「新八、無理すんな」
「でも」
「焦るな新八」
焦るな俺。我慢だ俺。
「大丈夫だから。さすがに禁欲を貫くなんて言えねえけど、大丈夫だから」
新八の目にうっすらと涙が浮かんだ。
今やりたい。新八とやりたい。
ただし、ちゃんと始めたい。だから今夜はやれない。
「今夜は、やめとこう」
俺が起き上がると、新八はぎゅっと抱きついてきた。
「ごめんなさい銀さん」
ほっとしてるのが伝わってくる。やっぱり今日はまだ早すぎたよな。
アクシデントも転じて福だ。心で泣いた。
「謝るなって。俺は今日わかっただけでも充分」
ダメだ、もう股間が、反応しています。
バレないようにとか、もう無理だから。バレちゃってるから。
「で、ちょっと厠借りるぞ」
「だ、だめ!」
新八は慌てたように言って、着物の上から俺のに触れた。
「こら、反応しちゃうでしょうが」
「だ、大丈夫」
「いや、いやいやいや。無理、今のお前には無理です。俺も無理だから!」
「何で?」
ムキになったように、新八が俺の服を脱がそうとする。
「いや、何で?!」
新八が馬乗りになった。まるで襲われてます。
「いいから。やめなさい新八君。銀さんを厠に行かせてくれって」
「やだ!」
「そんな泣きながらされても困るから」
「行かないで銀さん」
「お前絶対まだダメだよ。見るのもダメだから」
「このくらい大丈夫です!」
「あっ! ちょ、新ちゃんやめなさい!」
「怖くない。絶対怖くない!」
ムキになる手をとらえて、何とか死守する。
「前したみたいに、」
「ダメです」
「く、口、とか、で…」
「嬉しいけど今はダメ」
言い聞かせるように言う。
どうしてそこまで言える。傷ついてるくせに。後悔と自分の愚かさで腹が立ってきた。
「行かないでください」
「ああ、どこにも行かないからさ」
新八は俺の体にしがみついている。
「ここにいるだろ、銀さんは」
新八は俺の胸に顔を押し付けたまま首を振った。
「…僕だってお通ちゃん見るとドキドキするのに…銀さんの背中見送るたびに、
僕がダメなんだからしょうがないし、銀さん大人だし…って。…身勝手だから、我慢しようって…」
新八が俺を見上げる。涙がぽたぽた落ちて、俺の着物に染みた。新八は慌てて顔を背けて、腕で擦る。
「新八」
頬を捉えてこちらを向かせる。瞼に、頬に、唇に、触れるだけのキスをした。
「少しは伝わったか?」
新八は何度も頷いた。
「わかったから。ここでするから。それでいい?」
新八が頷く。腹を決めた。
肩を並べて座ると、新八は俺の肩に頭を預けた。
月明かりが投げ出した二人の足先を照らしている。
「新八、」
横を向くと新八は見上げる。そっと唇に触れた。
「…銀さん恥ずかしいから見なかったことにしろよ」
「はい」
新八はまた俺の肩に頬を寄せて、眠るように目を閉じた。
左手は指を絡ませて新八と繋ぎ、右手だけで自分を慰める。
集中し始めると、我を忘れて没頭した。
新八は、俺の手を離さない。ぬくもりは怯えながらも、求めている。
抱えるつもりはなかったのに、こいつはついてきた。
生意気さも、辛辣な突っ込みも、俺のぬるい生活に刺激をくれた。
やばいな、と思った。
俺のほうがハマるとわかっていた。
だからからかってやった。本当に傷つけたら、俺のところからいなくなる。俺は一人の方がいい。
いつかまた、そこにいられなくなる気がするから。
捨てるのも、失うのも怖い。銀さんは怖がりです。
考えても、言葉を重ねても、俺は弁解ばかりで、気持ちを上塗りすればするほど、
衝動は止められなくなっていく。そして傷つける。
息を吐いた。
思い返す。温かい身体。俺を追っている視線。
そんなに俺が好きなら、触ってもいいよな。
そんな言い方をしてみたい。泣けばいい。悪戯してやる。
新八の中に入る瞬間。
泣きながらもいつのまにか感じ始めて、俺の名を呼ぶ。
なるべく、刺激を与えたくなかった。だから新八とは反対の方を向いて喘いだ。
新八、新八。
もう、無理。どうにかなっちまうよ、俺。
好きになりすぎて、止まれない。
俺が傷つけたのに。
こんな俺をまだ好きなのか。
「っ」
思わず左手をぎゅっとしたら、いい加減血の巡りが悪くなっていて、痛かった。
俺は呼吸が整うまで、目を閉じていた。
絡んだままの新八の手に何度も唇を押し当てた。
「銀さん」
新八が呼んだ。真っ直ぐに俺を見る。俺なんか、たいしたことのない大人だぞ。それも最低の部類の。
「ごめんな新八」
「何で謝るんですか」
お前は優しすぎるよ。
「…はなすぞ」
一本一本、解放する指。
「痛い」
「俺も痛い」
二人で握っては開き、血を通わせる。
「僕、あっち行ってます、ね」
「ああ」
一人になって、始末した。しばらくぼーっとしていた。
左手はまだ新八の手を握っているようだった。指と指の間に、感触が残る。
抱いたとき弄び、俺にしがみついてきた指。
「…」
今はとりあえず大人しくなった股間に、着物の上から触れた。左手で。
深く息を吐いた。
こんなの、あいつには見せられない。
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