感触 Second Touch


「この間は帰っちゃったね」
乾の声に、海堂は濡れたままの顔を上げた。 乾を睨んだまま、水道の蛇口を閉める。
「せっかく二人きりになれると思ったのに」
乾が口元だけで笑う。海堂は視線をはずし、 乾の背後から射す夕日を見る。赤い。
「俺をからかうな」
海堂はぶっきらぼうに言い、顔を拭いた。
「新しいメニューだ」
「…」
乾が差し出したメモを海堂は受け取った。
「無理は禁物だ。確実に身体能力を高めるためにはね」
海堂は無言だった。不服そうな顔を見て乾が笑う。
「…また誘ったら、来る?」
歩き出した海堂の背中に乾が言った。海堂は答えなかった。




乾のベッドにもたれるように床に座ると、すぐに乾が触れて来た。 制服を脱がしもせず、前を開けて、ズボンからシャツを引き出して 手を潜り込ませ、腹の上を撫でた。 それは前よりも荒々しかった。
「もう来ないと思ったよ」
乾の息が耳元に掛かって、海堂は僅かに身を竦めた。
「ちゃんと逃げないと、後悔するかもしれないよ」
「…」
海堂は黙っていた。逃げるには嫌悪感が足りない。 触られるままの海堂に、乾は含み笑いを漏らす。
「こういうの好きなのか?」
乾はからかうように言い、海堂のはだけた襟元をさらに開いて、 海堂の首筋にキスをする。海堂の体が小さく跳ねた。
「遊び、なんスか…」
海堂の表情が少し歪んだ。快感に抗おうとしていた。
「好きだろ、遊ぶの」
「ふ、」
乾の舌が耳元をペロリと舐めたので、海堂は震えた。
やっぱり、遊びなのか。
「こんな風に触れられたら、堪らないだろう」
乾の低い声が、海堂の気持ちを刺激する。
「やめてくれ」
海堂は乾の手を捉えた。
「どうして? 気持ち良くないのか?」
乾は笑いかける。
「俺のことなんか…、」
好きじゃないくせに。
言いかけて海堂は涙腺が緩むのを感じた。
「…言葉が欲しいのか?」
乾がからかうように言った。
「好きとか、」
海堂の手を払って、シャツのボタンをはずしていく。
「愛してるとか」
乾は自分のガクランも脱いでベッドに放った。
「そんなものあげないよ、海堂」
耳元で囁いて乳首を撫でた。海堂が身を固くした。
「この間よりもよくしてあげるよ」
「ちょ…っと」
海堂が頬を赤らめるのを気にも留めず、乾は海堂の ベルトをすばやく外して、ファスナーを下ろす。
「ア…ッ」
乾は涼しい顔で海堂のものを取り出した。
「あっ…先輩っ」
乾の口に包み込まれたそれを凝視して、海堂は小さく震えた。
「何、やって、うあ、ぁ、」
絡み付いた舌に声を上げると、 乾は卑猥な音を立てて、それを口から出した。
「もちろん、いずれはお前にもしてもらうけど」
「!」
乾の眼鏡が西日に反射した。赤くなった海堂をニヤリと笑う。
「まだ逃げないのか?」
「あ、ああ…っ」
さっきより深く含まれて、海堂は思わず目を閉じた。
「はあ…、」
頭が真っ白になって、ただ声が漏れる。 どんなに我慢しようとしても無駄だった。
「はあああ」
海堂は身を捩って喘いだ。乾が楽しそうに笑うのがチラリと目の端に 見えた気がした。
「はあ、あァっ」
海堂のそこに意識が集中した。乾の舌が絡み付いてくる。
「はあ、あああ、ああ」
乾が含み笑いを漏らす。喘いでいる間に、海堂の体の何もかもを 知り尽くそうとしているように思えた。
「やめ…、ああ」
海堂は堪えるように俯く。
「あああっ」
乾の刺激に耐えられなくなって、海堂は射精した。
「ひどいな…」
乾が顔を上げた。
「眼鏡にかかったじゃないか」
海堂は肩で息をしながら目を開けた。 乾が背中を向けて汚れた眼鏡を拭いている。
「先輩…」
頼りなく呼ぶと、乾は振り返った。 眼鏡のない乾の顔に、海堂は少し照れた。胸が苦しい。
「泣くなよ海堂」
手を伸ばして指で涙を拭いた。
「だから逃げろって言ったんだ」
眼鏡を置いて、海堂のものを始末する。 乾の手が離れると、海堂は急いで服を整えた。 あとはボタンを留めるだけなのに、うまく出来なくて時間がかかった。
「…もう帰る?」
言おうとしたら、先に聞かれた。海堂は唇を噛んだ。 無言で荷物を持つ。
「先輩、」
海堂は乾を見上げた。乾はもう眼鏡をかけていた。
「キスなんかしないよ」
海堂の心を読んだように乾は言って、海堂の唇に指先を触れた。 しないなら、どうして触れるのだろう。 わずかに開いた唇を震わせて耐える。切なくて目が潤んだ。
「これは遊びなんだ」
口元で笑う。乾は何も悟らせない。 コートで見るのと変わらない笑み。
「嫌なら来なくていい」
骨張った指が、優しく海堂の唇をなぞって、離れる。 海堂は出来る限り顔に出さないように耐えたつもりだったが、 少し顔が熱くなった。
「…わかってます」
逃げるように部屋を出る。 出て行く時、まとわりつくような乾の視線を背中に感じた。
ちゃんと抱きしめあっても構わないような気配なのに、 乾は自分から遊びだと言い切った。乾らしいやり方だ。
いつのまにこんな気持ちになったんだろう。
こんなに、ひどい人間なのに。
好きだ。



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