感触 Third Touch
「海堂って、好きモノ?」
「アンタがだろ!」
海堂は顔を赤くして少し乱暴に乾のベッドに座った。
来るつもりはなかった。なのに、気がつけばまた乾についてきてしまった。
乾の口がうまいからだ。
「いじめられるのが好きなんだ…」
乾は意味深に笑うと、ガクランの前を開けて海堂の前に立った。
「嫌いだ」
出来るだけ無表情で返した。乾の顔はとても見られない。
ベルトの当たりを見つめ、床へ視線を落とす。
「そんな悲しそうな顔をするなよ」
頬を撫でられて、海堂は赤くなった。
「弱いんだよ、お前のそういう顔」
乾は呟くように言って、海堂を抱きしめてきた。
そんな乾はいつもと違う感じがして、嫌じゃなかった。
「先輩、」
カッターシャツに下着に靴下という状態になってから、
海堂はこの間の睦み合いとは気配が違うことにやっと気がついた。
とっくにイかされて、違和感もなく体をまさぐられていた。
「ア、」
乾は決して唇には触れなかったが、体にはキスをくれた。
耳朶を舐められると変な気持ちになって、海堂は声を上げてしまう。
「…これも、遊びっすか?」
海堂は天井を見上げたまま呟いた。荒くなる呼吸を必死で沈める。
「そうだよ」
「俺をどうするんスか」
「…どうしようか」
乾が体を起こした。
「どうしたい? 海堂」
「俺の意見なんて聞く気ねえくせに」
海堂は横を向いた。
「そうだね。まあ、確かに」
それを聞いて舌を打った。
「セックスしようか」
海堂は振り向き、乾の顔を凝視した。
「ヤメ、」
トランクスを引き摺り下ろされて心許なくなる。
「ちょっ…と、」
乾は海堂の足を捕らえて折り曲げた。
「心配するな」
「…っ」
海堂は尻に触れた乾の手から逃げることも出来なかった。
「うあ、」
慣れない場所に乾の指が入り込んだのを感じて、海堂は身を竦めた。
何か付けているのかぬるぬるしている。
「だ、駄目だ、やめろ、ヤメロ!!」
「恥ずかしがるなよ、」
「嫌だって言ってんだ!」
「聞こえない」
「な、」
乾は冷ややかに目を細めて、指を動かした。
「ああああ、変なことすんじゃねえ!」
「感じるのか」
嬉しそうに聞いて来て、一気に頭に血が上った。
「うるせえ! ヤメロって言、」
ガバっと覆い被さってきた乾が、耳元で囁く。
「静かにしないと、隣りに聞こえるよ」
「!」
「案外響くから、この部屋」
「やめて下さい!」
海堂は小声で言う。乾がにやりとした。
「嫌だっ…」
海堂の足首をひとまとめに掴んでいる乾のせいで、
思うように暴れることも出来ない。
乾のもう一方の手は、相変わらず海堂の中で蠢いている。
「こんなの、キツイっすよ…」
「うん、確かに、無理っぽいよね」
「そういう意味じゃねえ!」
海堂は半泣きで叫んだ。乾は笑って見ている。
「う、」
さらに侵入してきた感覚に、身を固くする。
「力を抜けよ」
乾の声が囁いてくる。乾の低い声が海堂は好きだ。変な気分になって、
顔が熱くなるのを感じた。
「俺の遊び相手はお前だけなんだ」
乾は言って、そっと足を戒めていた手を放した。
「帰る?」
「…っ」
自由になった足を下ろし、乾の腕を挟んで膝を立てた。
乾は指を抜こうともしない。
「やり方が汚ねえよ! 俺に選ばせて…っ」
半身を起こして、乾と同じ目線になる。
「俺が、断われねえの、わかってて、」
溢れた涙を急いで拭いた。泣くつもりなんてなかった。
「遊びとか、キスはしないとか、」
伝い落ちた涙をもう一度拭く。
「ごめん海堂」
乾は空いた方の手で海堂の頬に触れた。ひどく申し訳なさそうな顔をして、
海堂の心を揺さぶる。
「指を、」
瞬きを繰り返しながら、訴える。
体の中の乾の指が、何をしているのかなんて
考えただけでおかしくなりそうだ。
「それは無理」
きっぱりと乾は言った。
「どうして」
「海堂にもっと近づきたいから」
「変なこと言うな」
頬を赤くして怒る。
「海堂」
「なんだよ」
「静かに」
乾の指先が、唇に触れた。海堂はすっと気持ちが収まるのを感じた。
指が離れ、代わりにゆっくりと乾の唇が近づいてくる。
思わず、身を引いた。背中に壁が当たって逃げ場がなくなった。
「!」
思わずギュッと目を閉じた。唇に触れる感触。恐る恐る目を開ける。
乾は深く目を閉じていた。普通で、誠実なキス。
意味もなく胸が熱くなった。
温かい感触はじっと海堂に押し付けられている。
どうして、今までしてくれなかったんだろう。
乾の舌があやすようにペロリと唇を舐めて、離れた。
「キスはしないつもりだったのに」
いつもはポーカーフェイスの乾が、うっとりと海堂の唇を見た。
そんな表情を、初めて見た。
「俺も甘いな」
乾の指はぬるぬると抜き差しを繰り返した。
海堂は恥ずかしくて顔から火が出そうになりながら耐えた。
「先輩、嫌だ…」
本当は少し気持ち良くなっていた。もう一度押し倒される。
「遊びだよ、海堂」
乾は言うと含み笑いして、海堂の体に唇を寄せる。
…俺を焦らしてるんじゃないのか?
乾は震えている海堂の膝を撫でていた。太股の内側を唇でなぞる。
海堂は小さく悲鳴を上げた。満足そうに乾が笑う。
「もう慣れてきただろ、海堂」
忘れていた感触を思い出して海堂は身を固くする。
「指を増やしてみよう」
「!」
ペナル茶と同じ感覚で、海堂の体を開発しようとしている。
海堂は血の気が引いていくのを感じた。やっぱり乾だ。
普通じゃない。
「大丈夫だよ。今日は指しか入れないから」
不安そうな顔をした海堂を見て、乾が言った。
少し安心した次の瞬間、海堂は痛みに声を上げた。
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