感触 Fourth Touch
「やあ、休むかと思ったのに、根性だね」
コートに入ってきた乾の呑気な顔を見て、
海堂は怒りを露わにした。
「ゆるさねえ!」
完全に威嚇する体勢だ。
「怒るなよ。ちゃんと薬も塗ってやっただろ?」
乾は、指しか入れてないんだから、と小声で付け足した。
「だからって三本も入れやがって!」
真っ赤な顔で噛み殺すように言って、海堂が目を潤ませた。
「最後に試しただけじゃないか、二本までは大丈夫…」
「なんの話ー? 乾、海堂怒らせたにゃー?」
菊丸が二人の間に顔を出した。海堂は乾を睨み、
プイと顔を背け、コートに入った。
「乾、嫌われてる?」
「ああ、そうかもしれない」
乾は言いながら自信たっぷりに笑った。
「ついてくんじゃねえ!」
海堂は怒鳴った。部活を終え、いつもの河川敷に向かう道。
「駄目だよ。こんな日だから俺がついてなきゃ、
お前、絶対無茶するだろ」
「…」
海堂は黙って前を向く。肩を怒らせて歩く姿は、どこかぎこちない。
「有り余るエネルギーをぶつけるものがあって、
そのまま素直にぶつけられるって幸せだな」
「チ、」
鬱陶しそうに舌を打つ。
「でも加減を知らないのは愚かだよ。海堂って後のことなんて
全く考えないで、今しか生きてないタイプだろう」
乾が言った。
「説教くせえんだ、帰れ!」
荒れた言葉で海堂が怒鳴る。相当頭に来ているらしい。
河川敷が見えて来た。
「海堂!」
走ろうとする海堂の腕を掴む。
「今日は休めよ。部活に出ただけで充分だ」
「…っ」
海堂の顔が苦痛に歪んでいる。
「あんたのせいで、トレーニングが進まねえ!」
海堂は潤んだ目で睨んだ。
しばらく無表情で黙っていた乾が、ふ、と息を漏らす。
まるで嘲笑うようだった。
「来なきゃ良かったんだ」
乾は言った。
「何だと?!」
「ちゃんと逃げなかったお前が悪いんだ、海堂」
「…」
海堂が怒りに身を震わせた。
「嫌なら来なきゃいい。俺はそう言ったけど?」
俯いた海堂を見下ろして続ける。
「俺のことがそんなに好きなのか。嫌な事されても、
また触れられたくなるんだ?」
冷ややかに言うと海堂の目からぽたりと涙が落ちた。
海堂は乾の手を振り切った。
「…悪いか、最低野郎!」
海堂は河川敷には下りずに帰っていった。
「やれやれ、だな」
乾は呟いた。こうでも言わなければ海堂は休まなかっただろう。
海堂の姿が見えなくなると、歩き出す。
コンクリートに染みた海堂の涙を思い返した。玩具のように
思い通りになる海堂。
「キスしないって言ったのに、しちゃったしなあ…」
乾は頭を掻いた。
Copyright © 2002-2003 SHURI All Rights Reserved