感触 Fifth Touch
「マムシの奴、サボリやがった!」
桃城が騒いでいるのが聞こえた。
「ふざけやがって、」
「じゃあ桃センパイがレギュラー代理になってみたり」
「そういう事を言うな越前!」
「昨日しんどそうだったし、体調悪いんじゃないかにゃー?」
「あいつが?! そんなわけねえっすよ、サボリだ」
「まあまあ、一応連絡はあったし、なあ手塚」
大石に振られて手塚が頷く。
「海堂が休み?」
話の輪に入る。
「ああ、知らないか乾。お前、自主トレの面倒見てるんだろ?」
大石が聞いてくる。
「さあ…知らないな。どうしたんだろう」
理由は思い当たったが、乾は首を傾げた。
「学校には来てたのか」
「見かけたっすよ」
桃城が言いながら頷く。
「あの野郎、珍しいことすんじゃねえ!」
桃城がコートへ入っていった。
「なんか桃が熱いね」
ずっと皆の会話を聞いていた不二が呟く。
「同じ二年だしにゃ。海堂はレギュラー入り果たしたし」
菊丸は、体操を始めた乾をそっと見た。昨日のことをふと思い出して、
それから忘れておいた。
「電話よ、乾さんて方」
母親がドアをノックした。海堂はのろのろとベッドから
起き上がり、母親から子機を受け取った。
「はい」
海堂は自然と暗い声を出した。
「海堂?」
あの声がする。海堂は黙っていた。
「体のことは、謝るよ。今日休んでたから、安心した」
やっぱり普通じゃない。一方的に喋ってくる乾の声に、涙が出てくる。
何も喋らないつもりだったのに、海堂は口を開いた。
「先輩、普通は『心配』するんじゃないスか」
擦れた声で言った。
「心配? どうして?」
乾が電話の向こうで沈黙した。
「海堂、俺に心配されたいの?」
「嫌だ」
海堂は即答した。海堂の言葉遣いは、本当は正しい。
自分が普通だと思っていたことがいちいち覆される。
「…俺のこと、遊びなんスか」
海堂は呟いた。乾が沈黙した。
「答えたら、お前は納得できるのか」
乾がゆっくりと言った。海堂は考え込んだ。
「じゃあ、怪我が治ったら、」
乾が言って電話を切った。ひどくそっけない。
海堂は子機を机に置いて、ベッドに倒れ込んだ。
座っているのが苦しいから、自然と寝そべってしまう。
海堂にもっと近づきたいから
乾は確かにそう言った。この怪我をする前に。
キスの前に。
海堂はあの時の感触を妄想した。
明かりを消して、ジーンズの前を開け、手を差し入れた。
乾の手が、体を愛撫する。唇を当てる。
乾の声が囁いてくる。
すっかり乾のものになっている自分を自覚する。
乾に触られている。そう思うだけで、
海堂のものは固くなった。
「ア、」
乾の眼鏡に飛んだ精液を思い出して、激しく興奮した。
俺のを、口でしてくれた。
「はあ、あ、あああ、先輩」
声を押さえて呟く。そのうち息使いと手の動きで、
何を言っているのかわからなくなった。
「先輩、乾先輩…」
荒い息を押し隠すように海堂は布団に口を押し付けた。
「!」
解放感は、時間と共に、苦い罪悪感に変わっていった。
「何やってんだ…」
海堂は目尻に溜まった涙を拭いて、起き上がった。
乾はいないから、自分で始末しなければならない。
乾もするんだろうか。
ふと思って海堂は赤くなった。俺でやるのか?
唇をうっとりと見つめていた乾を思い出して、海堂はまた勃った。
あの乾がいい。いつものストイックな乾も、堪らないけど。
「っ」
海堂はもう一度触れた。
Copyright © 2002-2003 SHURI All Rights Reserved