感触 Eighth Touch


「お疲れ。これで全部出来たよ」
海堂がホッとした表情を見せた。伸びをして、それから、 乾のベッドに背をもたれる。ふう、と大きな溜息を吐く。
乾は意味深な笑みを浮かべ、海堂を見つめた。
「何すか」
視線に気づいて海堂が顔を上げる。
「最近、お前の視線がうるさいんだ」
海堂の頬がさっと赤くなった。
「俺はお前に触る気はないよ」
海堂が俯く。
「でも、俺の気を引きたいなら、有効な手段かもしれない」
「!」
乾の言葉に海堂はぐっと睨んだ。
「アンタ、やっぱ最低だ」
「この間泣いたの、可愛かったなあ」
海堂の言葉には応えず、手を伸ばし海堂の頬に触れた。 怒ったように見ていた海堂の視線が、切なそうに潤んでいく。
「お前みたいなの、見てると」
乾は海堂の耳元に口を寄せた。
「めちゃくちゃにしたくなる」
「う、」
乾の手が強く海堂の中心を押さえつけた。
「それなのにどうして俺が手を出さないのかわかる?」
「あ、遊びだから…」
快感を与えられて、喘ぐように答える。 触れられた部分にどんどん熱が集まってくる。
「…先輩っ」
「お前もわかっててここに来たんだろ?」
乾が言うと海堂は困ったように横を向いた。目に涙が溜まっている。
「そろそろ我慢出来なくなってきたな」
乾は手の中の反応を布ごしに感じとって海堂を煽った。
「どうする? 海堂」
「クソ…ッ」
海堂は、震える手でジーンズの前を開けた。
「…」
反応し始めたものを握る。乾の冷ややかな笑みが、海堂をまた熱くさせた。 海堂は擦り始めた。葛藤しているような緩慢な動き。
「ドキドキしてる」
乾は海堂のシャツの胸に手を置いた。庇うように海堂は身を竦める。
「さ、わんな…っ!」
抗議しても乾の大きな手の平は強く胸に押し付けられたままだ。 そんな風に触れて来る乾に、海堂は興奮した。
「俺が好きか」
「ああ」
海堂は答えるように吐息を漏らした。
「俺に見られて恥ずかしい?」
眼鏡に隠れた表情が、満足しているように見える。 海堂は荒く息を繰り返した。
「我慢出来ないほど嬉しいんだ」
「ああァ…」
海堂が身を捩った。激しく手を上下させる。
乾は無表情に海堂を見つめてくる。涙が溢れるのを感じた。 乾の手がゆっくりと離れる。焚き付けるだけ焚き付けておいて、 あとは見物するらしい。
「せんぱい…!」
海堂は請うように見た。
「俺のこと考えてるのか」
抑揚のない声が聞いてくる。
「先輩、は、」
「お前を見てる」
乾は答えると、冷たい笑みを浮かべた。
「先輩、」
海堂の唇が震えた。時々恥ずかしそうに俯く。
「海堂、」
乾の視線が眼鏡越しに注がれている。唇に、瞳に、濡れた手に、そこに。
「…っ」
「感じてるだろう、海堂」
乾が言った。その声に感じて海堂は激しく手を動かした。
「はあ、はあ、ああ」
時々そこに目を落としながら、恍惚として乾を見つめる。 何度確認しても、乾は海堂を見ていた。
「あああ」
乾の視線は残酷で、堪らない快感だった。
「ああ、あああ、先輩」
無意識に腰が動いてしまう。乾に向かって差し出されるように 思えて、余計に感じた。
「先輩、先輩、先輩!」
海堂は思うことをただ口走った。
「駄目だ、もう駄目だ、先輩…っ!」
「海堂」
乾の視線がまとわりつく。
「ア、はあああ、先輩、先輩っ」
堪えるように俯く。
「先輩…先輩、…先輩!」
海堂は身を捩って喘ぎ続けた。
「海堂は俺に見られるとそんなになっちゃうんだ」
楽しそうに呟く。
「海堂、俺が今何を考えているかわかる?」
乾が何か言っている。快感に流されてしまった海堂には、 もう認識できなかった。海堂は泣きながらただ首を振った。 何もかもを否定したくて、否定しても否定しても、 乾という存在が海堂の中に溢れてきた。
「先輩…!」





「海堂って、こういうのも好きなんだね」
乾がティッシュの箱を元に戻しながら言った。
「…」
海堂は俯いたまま黙っていた。乾が背を向けたまま付け足す。
「とても満足」
「チ」
含み笑いする気配を感じて、海堂は舌を鳴らした。



Copyright © 2002-2003 SHURI All Rights Reserved

BACK
TOP
NEXT