Private Blue V-1 途中でサンジの銃創に、バンダナをきつく巻いてやり、 また歩き出す。どう考えても目立ちすぎる。しかし 人に道を聞くのは憚られる。 どっちにしても歩き続けるしかなかった。 「おい…下ろせよ」 サンジが背中を叩いた。 「やっと起きやがった」 ゾロはウンザリしてサンジを肩から下ろしてやった。 「何で止めた? 俺が奴を潰したらさっさと逃げろって言っただろ!」 サンジが叫んだ。行き交う人々が振り向き、通り過ぎていく。 「やめろ、こんなところで」 「何で止めた!」 泣き出しそうだったので、ゾロはサンジの顔を引っ叩いた。 「お前がパクられたら俺がパクられる。そんなのゴメンだ」 サンジが目に涙を溜めたままゾロを見た。 「いいか、てめえだけの問題じゃねえ。やりすぎると反発が起こる。 てめえは目立ち過ぎる。簡単にてめえの身元なんかバレちまうぞ。 あれだけの人数が見てたんだ。俺だってすぐ足がつく」 「…」 サンジがゾロの目を意識してか、横を向いて零れ落ちた涙を拭いた。 「宿へ帰りてえんだ。迷っちまった。案内しろ」 ゾロは背中を向けて歩き出した。 「そっちじゃねえ、こっちだバカ」 サンジの声に振り向くと、サンジはもう歩き出していた。 追いついてそっと窺うと、やはり泣いているように見えた。 「本当にこっちなのか?」 「疑うなら勝手にしろ!」 サンジが吐き捨てた。ゾロのバンダナは既に血で染まっていた。 熱が出始めたのか、サンジの息は荒く、額が汗で濡れている。 ゾロはチラリとそばの宿を見上げた。裏通りの両脇には、 その手の宿が山ほど立ち並んでいる。 「来い」 ゾロはサンジを引っ張って宿の一つに入った。 サンジから受け取った金貨のうち数枚は、もう身につけていた。 極めて事務的に金を払い、鍵を渡されると、 喚いて嫌がるサンジを連れて部屋へ上がった。 ベッドに突き飛ばすが、サンジは起き上がらない。 「馬鹿が。何で撃たれるんだ。てめえの戦闘能力なら あれくらいかわせるだろ。びびった人間が当てずっぽうに撃った玉だぞ!」 怒鳴りながら、ゾロはその腕に巻いた自分のバンダナを解いた。 苦心して上着を脱がせる。 「ただのカスリ傷だ、馬鹿みたいに言うな!」 サンジが怒鳴り返す。 「カスリ傷ってのはな、馬鹿みてえに血が流れ出てこねえのを言うんだ」 言いながら傷口の周辺を覆うシャツを破る。 弾は肉を抉って飛んでいったらしい。 「馬鹿って何だ、馬鹿って!」 起き上がろうとするサンジの胸を押し戻した。 「頼むから興奮すんな」 ゾロは自分が怒鳴ったのがまずかったと瞬時に反省し、下手に出た。 テーブルの、フルーツの盛られた器にナイフを見つけ、取り上げる。 「ライター出せ」 サンジは脱いだ上着の内ポケットを探って取り出した。 受け取り、ナイフをあぶる。 「すぐ済むから我慢しろ」 「ちょ、」 馬乗りになって、熱くなったナイフを傷口に押さえつける。 サンジが絶叫し、身を捩った。 肉の焦げる匂い。サンジの白い腕に跡がつく。 「終わり。朝になったら俺は荷物を取りに行って、島を出る」 言いながらシーツの端を裂き、サンジの傷口に巻いてやる。 「てめえ、よくもこんな…」 サンジが息を荒くして叫んだ。 涙が止まらなくなっているらしい。男のくせに面白い奴だ。 「俺はいつも自分で治療する。医者を探す手間もかからず早いからな。 どうせなら、こういう時のために医者も探しておくんだったな」 ゾロは言うと、シャツを脱ぎ、シャワー室へ入っていった。 「クソ、てめえなんか!」 サンジが怒鳴ったが、ゾロはそれ以上取り合わなかった。 ゾロがシャワーから出てくると、サンジはぐったりした様子で テーブルのマスカットを一粒一粒口に入れていた。 汗が耳元を滴り落ちていく。 「飲めよ」 水差しの水をグラスに注ぎ、差し出した。サンジは一瞬考えて、 手を出した。一気に煽る。 サンジはフラフラとベッドに寄っていき、倒れ込んだ。
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