Private Blue U-4 サンジは呟いた。ターゲットが来る店の前を通りすぎる。 「毎週金曜の夜に、自分の持ってる店の本店に出かける。今通り過ぎた マーレって店だ。開店は八時だが、レディ達のレビューが九時から始まるんだ。 その時だけ、ボディガードが二人になる」 「普段は?」 「ガッチリ覆うように十人張りついてる」 サンジは憎々しげに言った。 出来るだけ人の多いところがいい、とサンジは言った。 この島での警察的役割を担う海軍が、彼の違法行為の尻尾を掴むために 必死の捜査を続けているらしいことはさっきも聞いた。 「とにかく、あいつを一人にして海軍に捕まえさせれば、 あとは芋蔓式に一族が引っ張られてこの島は平和になるんだ」 「お前の本当の狙いがわからねえな…」 ゾロの呟きを聞いて、サンジは振り向いた。 「知らなくて結構。金の分しっかりやってくれればいい。 俺があいつをぶちのめしたら、すぐに逃げてくれ。 お前にはもう会わねえ。先に全額渡したのはそういう訳だ。 それで終わり」 「…」 ゾロは眉間に皺を寄せたままサンジの後ろ姿を見つめた。 「来た」 サンジはゾロを振り返った。大通りに面した一等地にその店はある。 店の2ブロック手前で待ち伏せていた。応援が来るまでに始末できそうな 距離を割り出した。 「赤いスーツが俺のターゲットだ」 「剣を持ってる奴、俺にまかせろ」 二人は一気に飛び出した。ゾロの抜いた三本の刀を見て、賑わっていた 通りから蜘蛛の子を散らしたように人々が逃げ出す。 「ヴィンセントさん、後ろへ!」 銃を構えたボディガードがヴィンセントをかばった。 「誰だお前ら、クソ、やっちまえ!」 赤いスーツはボディガードの影に隠れた。 長身で、傲慢さが滲み出た顔をしている。 二枚目を気取った長髪だが、卑しさばかりが目に付いた。 ヴィンセントとボディガード二人、 サンジ、ゾロの五人が円形にあいた空間に取り残された。 人々はその境界を踏み越えはしないが、助けを呼ぶわけでもなく、 息をつめて成り行きを見つめていた。 「何なんだ、この空気はよ!」 ゾロはこの戦いを見届けようとするギャラリーの予想外の反応に、 やりにくさを感じ、吐き捨てた。 「ヴィンセント…ぶちのめす!」 サンジが足を振り上げた。 「ガッ!」 銃を持ったボディガードが一人吹っ飛んだ。起き上がってくる所を 何度も蹴り上げ、叩き落とす。とっくにその手に銃はない。 その有り様を見て、ヴィンセントは銃を構えた。 「撃てよ! 撃ちやがれ!」 サンジはヴィンセントを目で刺すように睨み付けた。 「!」 ヘビに睨まれたカエルのようにヴィンセントが固まる。 やりやがるコイツ、 ゾロはちょっとだけサンジを見直した。 「っと。てめえは俺が面倒見てやる」 ゾロは二人目のボディガードが抜いた剣をかわし、笑いかけた。 「おい、もうやめろ、お前の勝ちじゃねえか」 左肩から血を流しながら、サンジはヴィンセントを蹴り続けていた。 既にヴィンセントは血みどろになり、気絶している。 鮮やかにゾロがボディガードに当て身を食らわし、 サンジがヴィンセントを蹴り倒した時、ギャラリーは喝采を送った。 ゾロはどういう態度を取っていいか迷いながら、 倒れたヴィンセントを蹴り続けるサンジを引き止めに入った。 ギャラリーは次第にサンジの非情なまでの行為にざわつき始めている。 マズイな…。 ゾロは舌打ちした。英雄が単なる犯罪者になるのに時間はかからない。 「やめろって」 血を流した腕をわざと掴んでも、サンジはやめなかった。ヴィンセントを 凝視したまま、蹴り続ける。 「こいつが…こいつが!」 サンジの瞳に涙が溢れていた。呻くように呟きながら、繰返し繰返し、 ヴィンセントの腹を、頭を、腕を、足を、蹴り上げる。 その脚力は普通の人間とは思えない…明らかに鍛えたと思われる手応えを 与えていた。 サンジは尋常ではない怒りや憎しみにとっくに冷静さを失っていた。 「ややこしいのはゴメンだぜ」 当て身を食らわすと、無防備になっているサンジは あっさり倒れ掛かってきた。 担ぎ上げ、ギャラリーの中へ紛れ込む。 それを見届けると打ち合わせたようにギャラリーは消え、 ヴィンセントとボディガード二人が倒れた場所を遠巻きにして、 元の賑わう通りへ戻った。その様子が可笑しくてゾロは笑った。 サンジを担いだままでは目立つので、裏通りへ入った。 尾行などがないか心配で、何度か角を曲がった。 「で、ここァどこだ?」 ゾロはサンジを担いだまま、迷った。
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