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Private Blue Ⅲ-3 「…早いな」 ゾロは後ろ姿を見たまま呟いた。 「とっくに昼前だ。早く出ないと延滞料金取られちまう」 サンジは小さく笑った。まだ顔色が悪いが、昨夜よりは マシのようだ。 サンジはゾロと一緒に宿を出てついてきた。 正確にはゾロがついていった。 「船? どこまで?」 サンジはタバコの煙を吐きながら聞いた。街を抜け、 森に入る。 「隣りの島の港町まで行ければ、あとは最短で目的地まで行ける」 「何だ、隣りならすぐだ、俺の船で送ってやるよ」 「船持ってんのか?!」 驚いて聞くゾロに、サンジはでかくはねえが、と答えた。 「聞きてえんだが、」 一緒に空を見た丘の家が見える前に、ゾロは切り出した。 「ヴィンセントはお前に何をしたんだ?」 サンジは口に当てかけたタバコを下ろした。 「…ガキの頃にちょっとな…昨日、奴の顔を初めて間近で見て… 動けなかったせいでこれだ、ハハ」 俯いたまま笑い、タバコを捨てて踏んだ。間を持たせるように タバコを靴でいじっている。 顔も、涙さえ見えなかったのに、本当に泣いている気がした。 ゾロは不意にサンジの右手を取った。 「何だ、おい、」 道をはずれ、どんどん奥へ進んでいった。 「待て、また迷っても俺は森は知らねえぞ」 サンジが引っ張られながら言う。ゾロは何も言わなかった。 常宿が見えてくると、少しホッとした。 「何だ?」 サンジは訳が分らないという顔でゾロに疑問や苦情を畳み掛けたが、 全部無視した。 宿に入ると寝ている婆さんを起こさずカウンターから鍵を取り、サンジをつれて 部屋へ上がった。昨日出かけた時のまま、カーテンは閉まっており、 部屋の中は暗い。 「脱げ」 「ああ?」 サンジがぽかんとしている。ゾロはシャツを脱いでサンジを押し倒した。 「何考えてんだ! お前もしかして…ホ」 「先週の分、今やらせろよ。サービスしてくれるんだろ」 ゾロが掻き消すように言い、サンジの顔が少し赤くなった。 「そんなの覚えてやがったのか、変態が」 サンジは顔を背けた。ゾロの手が覆って、口を塞ぐ。 この間はあんな声を上げていたくせに、サンジのキスはゾロのよりも ひどく拙い感じがした。苦しそうな顔をする。 サンジが脱ぐのを手伝ってゾロも脱ぐ。 勿体無いことをした、とゾロは思った。 もしかして、二度会って、二度やれたかもしれないのに。 そんな気分じゃなかったなんて、苦し紛れの言い訳だ。 あの日も、本当はビンビンに勃っていた。トイレに二回立ったことさえ、 誰も気づかなかったのだろうか。 独占出来なければ、いらない。 ゾロはあの時そう思ったのだ。 「お前がフェミニストだってのはよくわかってるぜ」 ゾロが言った。サンジの白い首筋を唇で辿る。 「こんなときにレディたちのことを思い出させんな」 サンジは眉を潜めた。胸に耳を当てると心音が早い。 「どんな気分なんだ? 男に抱かれるってのは…女を抱くのとは 違うんだろうな」 「…」 ゾロの背中を撫でていたサンジの手が止まった。 「俺はレディを抱いたことはねえ」 サンジは言い、腕をベッドの上へ投げ出した。 「え」 ゾロがサンジの顔を見る。 「あんなことをレディにするなんて、無理だ」 サンジの瞳が潤んでいた。 「何言って…」 ゾロは言いかけて言葉を失った。ぼんやりと見えていた、 サンジの過去にある何かがはっきりと浮かび上がってきた。 「あの丘の家の知り合いってのはな、元娼婦だ」 サンジは言った。 「俺が始めて知り合ったレディだ。俺が出来ないと知っても 笑わなかった。娼婦は傷つかないようにするんだと言った。 俺にその方法を教えてくれた」 ゾロは抱きしめたまま、サンジの頬にキスをした。 気持ち良さそうにサンジが目を閉じた。 「確かに傷ついたりはしなかった。お陰で山ほど金が貯まったし、 お前の情報も知ることが出来た」 サンジは小さく笑った。 「先月、すれ違いにお前がここを発った時にはどうしようかと思ったが… まさか一ヶ月後に戻るなんてな」 楽しそうに笑う。ゾロは赤面した。 「お前は何のために俺を抱く?」 サンジは真っ直ぐにゾロの目を見た。 「…じゃあお前は何で俺と寝るんだ?」 ゾロは言った。 沈黙が続き、ゾロは諦めたように身を起こし、膝をついたまま、 ベッドサイドのカーテンを開けた。 真昼の白光が、部屋に差し込んでくる。 「見ろ」 サンジがまぶしそうに目を細めた。 「空が見える」 ゾロは続けた。 「傷つこうぜ」
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