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Private Blue
Ⅰ-2

「おい、サンジ! 皿を洗え!」
パティが呼び付けた。返事はない。
「ったくどこへ行きやがったあのガキ! このクソ忙しい時に!」
パティは魔法のような手捌きでカルパッチョを美しく盛り付けた。
「上がり! サンジはどこだ? もう皿がねえじゃねえか!」
「あいつ、ゴミ出しに行ってたみたいたぜ」
「ああ、あれから見てねえな」
遅い昼食を取り始めたコックたちのうち二人が、口をもごもごさせながら言った。
「そういやオーナーは?」
「上で仕入れの商談中」
カルネが隣りで声を張り上げた。厨房の中は調理の音で忙しない。
「そうか…こんなタイミングはなかなかねえな…今日こそヤキ入れてやる」
「おいおい、下働きとは言え、古株に手を上げちゃマズイんじゃないか?」
コックたちが笑い出す。
「ゴミ倉庫だな?」
「おい、バカ! お前が抜けたら余計手が足りなくなるじゃねえか!」
カルネが言うのも聞かない。
「あーあ、パティの奴、自分がサボりたかったんじゃねえのかあ?」
厨房を出ていくパティの後ろ姿を見ながら、コックたちが嘲った。


パティは、階段を降りていった。レストラン階の裏側のデッキに立つ。 サンジの姿はない。
「ゴミ倉庫でサボるわきゃあ、ねえよな」
それでも一応、ゴミ倉庫のドアを開けて降りていく。
「サンジ!」
静寂が包んでいる。
「いねえのか…それにしても…臭い、きついな…」
真面目に倉庫まで探してしまう自分を恥じながら、パティは上がって行った。
「おい!」
通りかかったウェイターに、パティは声を掛けた。
「サンジ見なかったか?」
「サンジさん? いいえ」
ウェイターは首を振った。
「どこに行きやがった!」
サンジの笑い顔が浮かんでパティは怒りがふつふつと沸き上がってきた。
どうせいつものように、パティをからかっているのだろう。 あの年頃は悪戯に事欠かない。
ゴミ倉庫まで探した自分をどこかから見ていて、後で皆に語って聞かせるのだ。 パティはカーッと顔に血が上るのを感じた。
「サンジィィ!」
思いついた場所からドアというドアをしらみつぶしにするしかない。 手始めに従業員用トイレだ。パティはゴミ倉庫の横のドアを バターンと音を立てて開けた。
仕切られた個室を順に見ていく。空いていて誰も使っていない。
「ここか、サンジ!」
ものすごい形相で、一番奥のドアを開けた時、パティはそれまでの 勢いを失わざるを得なかった。
確かにサンジはいたのだ。だがパティが想像していたように 隠れて笑ってはいなかった。
服を剥ぎ取られ、エプロンで縛り上げられ、目隠しをされて、 床に転がされていた。
「サ、」
パティの目に浮かび上がったのが何なのか、パティ自身も意識していない。
「おい、パティ、こんなとこで油売って…」
呼びに来たらしいカルネがトイレに入ってこようとした。
「来るんじゃねえ!」
「!」
パティの形相にカルネも何か異常な事態が起こった事を察知したようだ。
「お、オーナー呼んでくる」
カルネは言うなり、駆け出していった。
「サンジ!」
パティは急いで目隠しを取り、サンジの戒めを解いた。サンジは 気絶していた。犯人のものと思われるハンカチはサンジの涙で 濡れていた。
パティは居たたまれなくなって投げ捨てた。
「誰だ、誰だ、こんなこと、」
パティは刺青の入った腕で、ポロポロ流れ落ちる自分の涙を拭いた。
自分のことのように胸が痛い。
縛り上げられたサンジの腕は赤く鬱血し、力なく投げ出された足の間から 血が流れていた。
ひでえ。
言葉にならない。パティは自分のエプロンを解いて、サンジの体を覆うと、 そっと抱え上げた。


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