Private Blue U-2 振り向くと、酔っ払った賞金稼ぎのグループがサンジを指差していた。 「迷子のニイチャンも一緒か!」 さっき酒場で一緒だった奴等だ。 「迷子?」 サンジが眉を寄せて聞いたが、ゾロは少し顔を赤らめ黙殺した。 「丁度いいや、相手してくれよサンジ」 「あんまり下品だなんて追っ払われちゃって俺たち女に フラれちゃったんだよー」 「誰が下品だ、紳士だぞ俺はー!」 自分たちだけで盛り上がっている。 「…」 サンジは立ち上がったっきり少し考えていたが、男たちが 札束をちらつかせると迷いなく屋根を降りた。 「おい」 ゾロが続いて降りる。 「ニイチャンも来いや。一緒に楽しもうぜ」 酔っぱらいに両脇から腕を取られる。 「俺は…」 「来いよ」 サンジがボスらしい男に肩を抱かれたまま、振り向いて言った。 今日はやらねえって言ってたんじゃねえのか… ゾロは訝しげに眉を寄せたまま、強制連行されていった。 眠い。 宿に帰って寝るはずだったのに、何やってんだ俺は。 部屋へ入るなり、サンジの服は剥ぎ取られていった。 むきだしの肌はこの辺りの人間にはない透き通るような白さだ。 ゾロは、両脇の男が腕を放したのでやっと自由がきくようになり、 ベッドから離れ、窓際に置かれた椅子に腰掛けた。 とてもそんな気分にはなれない。外を見るとまだ空が青かった。 「ノリわりいなニイチャン、」 同業者の一人が振り向きゾロに声をかけた。 サンジは膝をつき、差し出された男たちのものを順に口で清めている。 「お前も入れよ」 男が満足そうに呻いた。儀式のようなそれが終わると、 サンジは人形のように、むしゃぶりつく男たちにされるがままだった。 ゾロはそういうのが好きではない。 悪酔いしたと、再三の誘いに適当に答えたらそれきり放っておいてくれた。 視線に気づき、振り向いた時、サンジは誘うような目をした。 ベッドに足を開いて座り、誰の目を見ることもなくゾロを見ていた。 顔を赤らめ、小さく吐息を漏らす。ゾロはじっと見た。 それは生理的なエロ心とは異質な、まるで何かを 観察し、分析するかのように冷ややかで厳格な見方だった。 「もっと良くしてやるぜ」 一人がサンジのものを含み口で愛撫を始めると、少しずつサンジの快楽が 深まって、じきに女のようにきれいな表情で、声を上げ始めた。 サンジが耐えるように顎を上げるたび、白い首元が見えた。 こういうのを卑猥というのだ、 ゾロは思った。男たちが酔った勢いで交わるには、 丁度いい『目くらまし』なのだ。 力なく投げ出されたサンジの体を男たちが舐め、愛撫している。 サンジはゾロを見ていた。目が合うと、小さく笑った。 それが屋根の上で見た彼と変わりない笑顔だったので、 ゾロは意味もなく傷ついた。 ゾロはサンジを見るのをやめ、背を向けた。 ゾロはサンジの声を聞きながらずっと外を見ていた。 通りに立つ女たちは日差しを気にしてか影に集まっている。 人通りはそこそこある。日常の全てを忘れる楽園の島。 連れ込み宿から見える空は、青が薄い気がした。 丘の家の屋根の上とは、空の近さが違うからだ、ゾロは勝手にそう思った。 一段と大きいサンジの悲鳴が聞こえた。いやらしい声だ。 ゾロは振り向かなかった。 あいつはあの濃い青の下でも、こんな声を出すのだろうか。 ぼんやりと考えた。 青が薄いと、駄目だ。…あいつは、 これでいいのか? 自分に関係ないことだが、無性に苛立った。 こんな日は空を見ねえとな。 さっきのサンジの言葉がやけに印象に残っている。 ゾロの低下した思考でも、女のように悲鳴を上げて鳴いている男が、 青い色を楽しんでいた男と同一人物とは思えなかった。 よくわからないが、サンジが酒臭い男たちに 抱かれているなんて信じたくなかった。 こんなとこで、何やってんだ俺は… ゾロはイライラしていた。 本当ならとっくに宿に帰って、酔いの勢いで寝ていたはずだ。 男が女のように抱かれるのを聞きながら、空を見ている。 それしか出来ない。 日が傾く頃、男たちはもう一度アルコール濃度を上げに 酒場へ出ていった。 シャワー室から出てきたサンジは既にシャツとズボンを身につけていた。 「あれ、あんたも帰ったかと思ったぜ」 サンジはタオルで髪を拭きながらゾロに言った。意外そうな言い方をする。 「お前のせいで寝そびれちまった」 ゾロが窓際の椅子に掛けたまま、眠そうに欠伸をすると、 サンジが首を傾げた。 「お前が声をかけなかったら、俺は一眠りして、今夜の船に乗って この島を出てたんだ」 お前のせいと云わんばかりに言ってみる。 「ホントかよ。口だけじゃねえの」 鼻で笑い、サンジはタオルをベッドに放り出した。 確かにその通りだった。ゾロはまだこの島を出るつもりはない。 サンジはネクタイを取り上げ、手早く締めた。上着のポケットから タバコとライターを取り出し、慣れた手つきで火をつける。 えらく様になっていて、ゾロはじっとサンジを見つめた。 「お前…」 「ん?」 「今日はやらなかったんじゃねえのかよ」 ゾロはサンジから目を離しながら言った。 「てめえこそ…何でやらなかったんだ? お前だったらサービスしてやったのに」 ニヤリと笑い、煙を吐きながらサンジは聞き返した。 ゾロがわずかに顔を赤くした。 「…空」 「は?」 「空を見てた」 サンジはぽかんとした顔をしている。 「何だよ、そのツラは…チ○○コ舐められてる気分 じゃなかったって言ってんだ!」 向きになってゾロが言うと、サンジは次第に笑みを浮かべた。 「なるほど、青い世界に入ってたのか、少年」 「てめえもだろ!」 ゾロが真っ赤になって返すとサンジは軽く受け流した。 「いい金になりそうだったから考えを変えたんだ。ワリイか?」 あっさりと答える。ゾロはぶん殴りたい衝動にかられた。 「次は来週にしか来れねえ」 そう言ってサンジはゾロを見た。 「アンタは来週まだここにいるのか?」 「さァ…」 ゾロはもう一度欠伸をした。 「駄目だな…送ってやるから宿へ帰れよ」 「エスコートされるなんてゴメンだ」 ゾロは立ち上がり、サンジの手を振り払った。 結局、ゾロは送られてしまった。サンジが強引についてきたのだ。 「なあ…来週まだここにいたら…お前に頼みたい仕事がある」 サンジは宿の前でゾロの背中に向かって言った。二本目のタバコを 指に挟んでいる。 「あァ?」 半分寝惚けたゾロが気のない返事をする。 「来週ここへ来て、お前がいたら頼むよ。強いんだろ? お前」 「俺は…、ややこしいことはゴメンだ」 賞金稼ぎだと言おうとしてやめた。そんな生活に馴染んでしまった 自分がいる。本当は真っ直ぐに、ある男を追いかけているだけ…だったはずだ。 「ややこしくなんかねえ。アンタは…いや、来週会ったら話す」 サンジは逃げるように踵を返した。 昼間もおかしなことを聞いて来た。 賞金首しか殺らねえのか、とかそういう類のことだった。変な奴だ。 ゾロは頭を掻きながら宿へ入り、寝ている婆さんを一瞥し、カウンターから 自分の部屋の鍵を取って部屋へ上がった。
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